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寂しい食卓
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台所の続きにあるスペースには白木のテーブルがあった。椅子は一脚。
レイムが食事のときに使っている一人用。
ノアがやってきた日。レイムは、そこへ暖炉のあるリビングから椅子を持って来てノアの席を作ってくれた。まだ数えるほどしかレイムと食事をしていないけれど、ノアはレイムと一緒に食卓を囲む時間が大好きだった。
家で誰かと一緒にテーブルにつき食事をした経験があまりない。
いつも一人で準備して一人で食べて一人で片付けていた。
ただの居候なのに食事の時間に呼ばれた。当然のようにノアの食事があることに目を丸くした。誰かと同じ時間を過ごす。それが飛び上がるほど嬉しいと感じているなんてレイムは知らないだろう。
レイムにとって当たり前でも、ノアにとっては一つ一つが新鮮だった。
いつもの時間になっても、台所に立たなかったレイムは二階の自室にこもっているようだった。だから今日はノアが食事を用意した。
川で釣って来た魚をベースにした簡単なスープ。ドライトマトにパプリカ粉、玉ねぎをじっくり煮た真っ赤な色をしたスープはノアがよく作る料理だった。それと朝レイムが焼いていたパンの残りを皿に並べた。気に入ってくれるといいなと思った。
準備が終わると二階にいるレイムを呼んだ。まだ怒っているのだろう。ノアは一緒に食事をして、もう一度しっかり謝ろうと思った。
しばらくして一階へ降りてきたレイムは無言だった。
向かいあって食事を始めたが、ものの数分でレイムはスプーンを置いてしまう。
「食器は、そのままでいい。明日、私が片付けるから」
「あの、えっと……もしかして、まずかった。味付け変だった、かな」
普段自分一人の食事しか作らないノアは、誰かに食事を作ったのが初めてだった。パンには手をつけていないが、スープは食べ終わっている。
小さめのスープ皿なので一杯だけで腹が膨れるとは思えない。
「いや。腹が空いてないだけだ」
そう言って席を立ったレイムは、どことなくふらふらしているように見えた。
「でも、スープ一杯だけじゃ……作り直す」
「いい」
ノアは、立ち上がって背を向けているレイムの手を掴んだ。その掴んだ手が、びっくりするくらいに熱を持っていた。
「え、レイムさん!」
「なんだ」
「手、熱! あついよ!」
「だから、どうした」
ノアを見下ろすレイムの少し潤んだ瞳。普段の稲妻のような鋭さがない。ぼんやりと遠くを見ている。
「さっきの薬もしかして」
「違う」
「嘘だ! あの薬、すごく冷たかったし、だから体調おかしくなったんだよね」
「関係ない」
「関係ある、よ。俺のせいで」
「うるさい。明日にしてくれ部屋に行く」
煩わしそうに怒っている声も、どこか覇気がない。数時間前に薬棚の前で見たときは、顔色が悪かった。でも今は熱のせいか白い肌が赤く色づいている。
それが食後で体が暖まり健康的になった色ならノアも心配しない。明らかに体調が悪く見える。レイムはノアをその場に残し、再び階段を上がってしまう。ノアがその場から動けずにいると、二階から扉の閉まる小さな音が聞こえた。
「レイムさん」
体調が悪いのにノアが呼んだら来てくれた。ノアの作ったスープを飲んでくれた。熱が高いから、きっとスープの味なんて分からなかっただろう。
言葉は冷たいし、弟子になる件は取り付く島がない。けどレイムは決してノアをいない人間みたいに扱ったりしなかった。獣人だと知った上でノアと関わってくれる。
――だから。
一緒にいたい。少しでもレイムの役に立てる自分になりたい。
こんな気持ちは初めてだった。
レイムが食事のときに使っている一人用。
ノアがやってきた日。レイムは、そこへ暖炉のあるリビングから椅子を持って来てノアの席を作ってくれた。まだ数えるほどしかレイムと食事をしていないけれど、ノアはレイムと一緒に食卓を囲む時間が大好きだった。
家で誰かと一緒にテーブルにつき食事をした経験があまりない。
いつも一人で準備して一人で食べて一人で片付けていた。
ただの居候なのに食事の時間に呼ばれた。当然のようにノアの食事があることに目を丸くした。誰かと同じ時間を過ごす。それが飛び上がるほど嬉しいと感じているなんてレイムは知らないだろう。
レイムにとって当たり前でも、ノアにとっては一つ一つが新鮮だった。
いつもの時間になっても、台所に立たなかったレイムは二階の自室にこもっているようだった。だから今日はノアが食事を用意した。
川で釣って来た魚をベースにした簡単なスープ。ドライトマトにパプリカ粉、玉ねぎをじっくり煮た真っ赤な色をしたスープはノアがよく作る料理だった。それと朝レイムが焼いていたパンの残りを皿に並べた。気に入ってくれるといいなと思った。
準備が終わると二階にいるレイムを呼んだ。まだ怒っているのだろう。ノアは一緒に食事をして、もう一度しっかり謝ろうと思った。
しばらくして一階へ降りてきたレイムは無言だった。
向かいあって食事を始めたが、ものの数分でレイムはスプーンを置いてしまう。
「食器は、そのままでいい。明日、私が片付けるから」
「あの、えっと……もしかして、まずかった。味付け変だった、かな」
普段自分一人の食事しか作らないノアは、誰かに食事を作ったのが初めてだった。パンには手をつけていないが、スープは食べ終わっている。
小さめのスープ皿なので一杯だけで腹が膨れるとは思えない。
「いや。腹が空いてないだけだ」
そう言って席を立ったレイムは、どことなくふらふらしているように見えた。
「でも、スープ一杯だけじゃ……作り直す」
「いい」
ノアは、立ち上がって背を向けているレイムの手を掴んだ。その掴んだ手が、びっくりするくらいに熱を持っていた。
「え、レイムさん!」
「なんだ」
「手、熱! あついよ!」
「だから、どうした」
ノアを見下ろすレイムの少し潤んだ瞳。普段の稲妻のような鋭さがない。ぼんやりと遠くを見ている。
「さっきの薬もしかして」
「違う」
「嘘だ! あの薬、すごく冷たかったし、だから体調おかしくなったんだよね」
「関係ない」
「関係ある、よ。俺のせいで」
「うるさい。明日にしてくれ部屋に行く」
煩わしそうに怒っている声も、どこか覇気がない。数時間前に薬棚の前で見たときは、顔色が悪かった。でも今は熱のせいか白い肌が赤く色づいている。
それが食後で体が暖まり健康的になった色ならノアも心配しない。明らかに体調が悪く見える。レイムはノアをその場に残し、再び階段を上がってしまう。ノアがその場から動けずにいると、二階から扉の閉まる小さな音が聞こえた。
「レイムさん」
体調が悪いのにノアが呼んだら来てくれた。ノアの作ったスープを飲んでくれた。熱が高いから、きっとスープの味なんて分からなかっただろう。
言葉は冷たいし、弟子になる件は取り付く島がない。けどレイムは決してノアをいない人間みたいに扱ったりしなかった。獣人だと知った上でノアと関わってくれる。
――だから。
一緒にいたい。少しでもレイムの役に立てる自分になりたい。
こんな気持ちは初めてだった。
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