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ネコとオセロと学校と
14匹目『猫の裏庭』
しおりを挟むそんなこんなで、本日6時限目の授業も終わり。
教室でHRを済ませ、帰宅準備を整えた俺は、鞄を背負い教室から出た。
この後は、帰り道の最中にあるネコカフェで“生”の成分を1週間ぶりに補給したのち、家に帰って課題でもやろうか。そんな風に予定を組み立てていた。
猫宮は当然のように一緒に帰ろうとしていたが、今日は大雨が降るらしい。
俺はそろそろにゃんこパワーを補充しないと死んでしまう為致し方ない寄り道ではあるが、猫宮はそんな事は無いし、そもそも、今日は傘を忘れている。昨日は色々あったせいか案の定寝坊してしまった為、猫宮の家まで傘を取りに行く余裕が無かったからな。
相合傘、と言う選択肢は無しだ。無駄なあがきかも知れないが、これ以上不本意な噂をされたく無いんだよ!
という経緯で、猫宮はとっとと帰す事にした。体育の時間にも言ったが、怪我や病気で迷惑するのはこっちだ。風邪でも引かれてみろ、ただでさえ看病しなくと行けなくなる上、熱なんかで意識が朦朧とした猫宮は、恐らく普段以上にべたべたとくっ付いてくるだろう。そんなのはゴメンだ。
天気予報が外れる? 知るか、物事はもしももしもの考えが重要なんだよ。
この事を伝えた時は絶望的な顔で『にゃぁぁぁ……』と鳴いていたが、無視だ無視。昨日あんだけわがまま通してやったんだし、この位は当然の報いと言う物。
そんな訳だ。俺は1人で、少し沈み始めた陽の光が射し込む廊下を抜け、靴箱に到着。
その場で待っていたらしい真を見て顔をしかめ、要件を聞く。
「おう真、何の用だ?」
「なにその顔。いやなに、犬斗放課後ウチの家来るって言ってたじゃん? 折角だし一緒に帰ろうぜ、暇だし」
「…まあ別にいいが、からかうなよ?」
「はっはっは」
適当な……
のらりくらりとはぐらかした真を、またも胡散臭げな目つきで流したのち、俺はカフェへの足を運び始めた。
◆◇◆
ーーさて、着いた。
学校を出て15分、周囲に家々が立ち並ぶ住宅街の一画に埋もれる様に、まるで浮世から忍び隠れるかの様に、そこはあった。
『猫の裏庭』ーーー和洋折衷の古民家を改装して作られた、和風とモダンの入り混じった不思議な雰囲気の漂う“ネコカフェ”だ。
名前の由来は諸説あるが、創業者にして料理と経営を一手に担う店長に聞いた所、“大通りから隠れる様に置かれた店で、ネコがたくさんいるから”との事だ。そこそこ洒落た名前とは対照的に理由が単純で驚いた記憶があるが、まあそんな物なのだろう。
因みにだが、今、頭一つ分のスペースを空けて隣を歩く真の実家でもある。真の祖父である老紳士の経営店兼住居で、海外出張中の真の両親に預けられる形で祖父孫2人暮らしーーという事らしい。
何処ぞの洋館を思わせる木製のオシャレ片開き扉を開き、“チリンチリン”と鳴る鈴の音をBGMに、隠れた名店『猫の隠れ家』への侵入を果たす。
最初に俺が足を踏み入れ、それに続く形で真が帰宅。
「ただいま~」とカウンター奥に向かって放つ真を置き、俺は、実に1週間ぶりのこの店の雰囲気を、久方振りに味わっていた。
入り口から見える範囲には、全体的に暗めの木材を基調に、所々対照的な明るい素材が使われ、店全体の空気感を程よく調和する。
真の呼び掛けに応じて奥から現れた、白髪白髭のダンディな老人は、先程から脳内で話題に上がっていたこの店の“店長(マスター)”である、『犬飼 白黒(はくろ)』だ。
彼が背に向けたカウンター奥のスペースには、色取り取りのジャムやティーパックの入ったケースが置かれ、これもまた、絶妙な雰囲気を醸し出す。思わず『マスター、コーヒーを一杯』と頼みたくなるが、この店ではカフェインは禁止されている。
そして、そのカウンターの周囲に等間隔に設置された机や椅子は、やはり全体の心地良い丁度良い“古臭さ”に加担し、まさしく『欧米辺りの喫茶店』と言わせたげ。
天井に取り付けられた名称不明のプロペラがゆっくりと回転し、これまた、店全体に通じる“雰囲気”を整える。
先程から雰囲気というワードを連続させているが、この店の本領の半分は、ある種そこだ。
この店は繁盛とは行かずとも、定期的に通う常連客と、たまに口コミ伝いで店に立ち寄る新客の二種類のみで成り立っている。
その半分くらいが、他にも無い客自身がこの店が放つ完璧なまでの“雰囲気”に捕らえられ、魅せられた結果によるものだろう。
そして、もう一つの“理由”だがーーー
「おお、ヒマワリ。覚えててくれたのか~、よしよし」
「ニャ~」
机の脚からひょこりと顔を覗かせた、黄土色のもふもふ。人々を魅了してやまない愛すべき小動物ーー
ーー所謂“御ネコ様”。 10は優に超える程の多種多少なネコを放し飼いにしているこの店が、客を捉えて離さない、最大の理由。
そこら辺からノラを拾ってきたかの様な、というか事実そういう経緯で集められた、愛くるしいネコたちを思う存分愛でるには、ここ『猫の隠れ家』と言う場所は、正に、理想的以外の何者でも無い。
カウンターの奥に立つマスターは、真(じぶんのまご)に『お帰り』の挨拶を交わしたのち、俺(じょうれんきゃく)に視線を移した。
「おっと、犬斗くん。久し振りだね」
「マスター、いつもの」
「ほっほっほ、どうやらだいぶテンションが上がっているらしい。さて、それじゃあ今回は特別力を入れて作るとしようか」
お洒落っぽい紅茶を淹れ始めたマスターを横目に、足元に擦り寄ってきたネコ達を撫でまくった。
くるくると喉を鳴らすネコたちを見て、思わず溶けたマシュマロの様に顔を破顔させるのだった。
「ニャ~」「ニャン」「ニャア」「ニャウ~」
「ぁぁぁぁあ……最高」
ぽつりと呟いた俺に、きっと罪は無い。
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