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ネコとオセロと学校と
13匹目 『幼馴染が見栄の為に危険行為に及ぶのだがどうやって辞めさせたら良いだろう?』
しおりを挟むふむ。
木製の床を踏み歩く靴の音、誰かが何らかの競技を成功させたらしい歓声。
百獣高校体育館では現在、1-Bクラス6時限目の項目となる、体育の授業が行われていた。
内容は、跳び箱や側転などのマット運動を幾つかのグループに分けて行う、と言うもの。まあ、何の変哲もない良くある授業風景だ。
今現在、俺の所属するグループは休憩中であり、水分補給やグループ仲間とのお喋りなど、思い想いの休息を取っている。
俺は水筒に入ったお茶を飲みながら、対角のグループをなんの気もなしに眺めていた。
するとその視界の端に、黒く丸っこい塊がひょこりと覗いた。視線を下に落としーー発見。
「……で。猫宮、お前なんでこっちのグループにいる。別グルだろ」
「えへへ……さ、さっき跳び箱10段跳んだの、見ててくれた?」
いつのまにか俺の所属グループーー構成4名、その内1人は真で、残りは真の友人。
それらが陣取っている一角にやって来ていた猫宮が、不安そうに、疑問そうに聞かれ、思わず溜息をつく。
……ちょっとは、こっちの心配も考えろ。そう言う話だ。
「アホか。見てはいたが、流石に自分の身長より高い奴を跳びやがったもんで、冷や汗かいたわ。俺に見栄張りたいのは分かるが、無理すんな、怪我したら看病するのは病院と俺だぞ?」
「う……で、でもでも、凄い、でしょ?」
「はぁ………」
ここまでのやり取りを見れば察して貰えるだろう。実はこの少女猫宮、意外にも運動神経が良い。
力は弱く、体力も多い訳ではない。だが、身体が柔らかく、また抜群のセンスと俺に褒められる為ならばどんな事でも挑戦するーーそんな勇気も持ち合わせた、所謂“天才系”と言う奴だ。
ボール系の競技は得意では無く、泳げもしない。ただし、こういった体操系の物であれば、身長さえ届けばいとも容易く高難度の演技もこなしてみせる。
その才能をもっと有効に活用しろとは常々思っているが、どうやらこいつとしては俺に見せる以外の用途は考えていないらしい。勿体無い話だ。
ともかく。俺は幼馴染の義務として、故郷の親に頼まれた使命として、こいつには怪我をさせないようにしなければならない。いやまあ、押し付けられただけだし使命やら命令レベルの重大な感じでは無いが。
ここで褒めたらまた図に乗って、今度はより高難度のものに挑戦しようとするかもしれない。だからここは。
「…いいや駄目だ。凄さは分かるが、それが褒められる行為かと言うと違う。2度とこんなことはするな。さも無いと……」
「さ、さも無いと?」
「お前はもう2度と家に上げんし会話もしない。と言うか、ほぼ絶縁だな」
「ふにゃあぁぁ……笑顔で言わないでぇ…」
怯えたように、ぷるぷると震えて涙を浮かべる猫宮に、念を押して注意する。
「んじゃ、もうやんないか?」
「うん! ぜったい、絶対やらない! だ、だから、ごはん作って、お話ししてよぉ……」
「安心しろ。それを約束出来るなら、ちゃんと話しはしてやる。ま、まあたまに飯を作ってやらんこともない」
「やった! にへへ、犬斗!」
「だーかーらくっ付くなぁぁぁ!! 視線が怖いんだよ辞めろマジで!」
「んふふ……」
またしてもベタベタと擦り寄ってくる猫宮を引き剥がそうと苦戦する最中、さっきまで友人と会話していた筈の真に、呆れた目で言われる。
「…きみら、まぁた仲良さそうに……あいつら、キレてるよ?」
「いや、そうなんだが! こいつが離れねえんだよ、何とかしてくれ!」
「ぜ、絶対離れないもん……」
「……犬斗、何でこうまで好かれてんのに無下に扱うんだよ。意味ないでしょ、それ」
「何故って? そりゃ当然、鬱陶しいからだ!「ふえ…」だーもう泣くんじゃねえな! そう言う所がうざいって言ってんだよ!」
ざわざわと、いつのまにか人が集まって来る。
目的は無論、学年トップ3を争う程の(顔だけ)美少女の猫宮と、対比的に学年1の地味男の称号は硬いであろう俺と言う不釣り合いすぎる組み合わせでのいちゃいちゃ(傍目)の見物。
ついでに言えば、殆どの人間にとって顔馴染みである真がいる事も、近付くのに抵抗をなくす要因だろう。
無責任に視線を逸らし、白々しく口笛を吹く真を睨む。
「おい真、何でスルーしてんだ原因半分お前だろ!」
「そ、そうだよ真さ「お前がもう半分だろうが!」うぇぇ…」
ったく、こいつはいつもいつも……
呆れ眼で猫宮を眺める俺に気付いたのか、真が、にやにやと俺の顔を覗き込む。
「おやおや犬斗さんや、彼女さんを注視してどうしたんですかねぇ?」
「そんなんじゃねえよ知ってんだろお前!」
『かのっ……』と呟いたのち硬直して石になった猫宮をこれ幸いと引き剥がし、真に向き直る。
……やっぱり。こいつの姿は、昔何処かで見た事がある。そんな風に思う事が、たまにある。
最も、中学時代に一瞬話して、名前を教えた事があるだけのその少女とはーーそもそも、性別すら違うが。
雰囲気や佇まい、顔の造りが何処と無く似ているからそんな既視感にかられるのだろうが。流石に、他人の空似だろう。
硬直したまま倒れ込んだ猫宮を起こす俺は、気ままに背伸びをする真を見て、そう、何と無く思った。
「なにか言いたいことでもあるのか?」
「いやなにも」
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