上 下
13 / 32
ネコとオセロと学校と

13匹目 『幼馴染が見栄の為に危険行為に及ぶのだがどうやって辞めさせたら良いだろう?』

しおりを挟む
 

 ふむ。


 木製の床を踏み歩く靴の音、誰かが何らかの競技を成功させたらしい歓声。

 百獣高校体育館では現在、1-Bクラス6時限目の項目となる、体育の授業が行われていた。

 内容は、跳び箱や側転などのマット運動を幾つかのグループに分けて行う、と言うもの。まあ、何の変哲もない良くある授業風景だ。


 今現在、俺の所属するグループは休憩中であり、水分補給やグループ仲間とのお喋りなど、思い想いの休息を取っている。

 俺は水筒に入ったお茶を飲みながら、対角のグループをなんの気もなしに眺めていた。

 するとその視界の端に、黒く丸っこい塊がひょこりと覗いた。視線を下に落としーー発見。


「……で。猫宮、お前なんでこっちのグループにいる。別グルだろ」

「えへへ……さ、さっき跳び箱10段跳んだの、見ててくれた?」


 いつのまにか俺の所属グループーー構成4名、その内1人は真で、残りは真の友人。

 それらが陣取っている一角にやって来ていた猫宮が、不安そうに、疑問そうに聞かれ、思わず溜息をつく。

 ……ちょっとは、こっちの心配も考えろ。そう言う話だ。


「アホか。見てはいたが、流石に自分の身長より高い奴を跳びやがったもんで、冷や汗かいたわ。俺に見栄張りたいのは分かるが、無理すんな、怪我したら看病するのは病院と俺だぞ?」

「う……で、でもでも、凄い、でしょ?」

「はぁ………」


 ここまでのやり取りを見れば察して貰えるだろう。実はこの少女猫宮、意外にも運動神経が良い。

 力は弱く、体力も多い訳ではない。だが、身体が柔らかく、また抜群のセンスと俺に褒められる為ならばどんな事でも挑戦するーーそんな勇気も持ち合わせた、所謂“天才系”と言う奴だ。

 ボール系の競技は得意では無く、泳げもしない。ただし、こういった体操系の物であれば、身長さえ届けばいとも容易く高難度の演技もこなしてみせる。

 その才能をもっと有効に活用しろとは常々思っているが、どうやらこいつとしては俺に見せる以外の用途は考えていないらしい。勿体無い話だ。


 ともかく。俺は幼馴染の義務として、故郷の親に頼まれた使命として、こいつには怪我をさせないようにしなければならない。いやまあ、押し付けられただけだし使命やら命令レベルの重大な感じでは無いが。

 ここで褒めたらまた図に乗って、今度はより高難度のものに挑戦しようとするかもしれない。だからここは。


「…いいや駄目だ。凄さは分かるが、それが褒められる行為かと言うと違う。2度とこんなことはするな。さも無いと……」

「さ、さも無いと?」

「お前はもう2度と家に上げんし会話もしない。と言うか、ほぼ絶縁だな」

「ふにゃあぁぁ……笑顔で言わないでぇ…」


 怯えたように、ぷるぷると震えて涙を浮かべる猫宮に、念を押して注意する。


「んじゃ、もうやんないか?」

「うん! ぜったい、絶対やらない! だ、だから、ごはん作って、お話ししてよぉ……」

「安心しろ。それを約束出来るなら、ちゃんと話しはしてやる。ま、まあたまに飯を作ってやらんこともない」

「やった! にへへ、犬斗!」

「だーかーらくっ付くなぁぁぁ!! 視線が怖いんだよ辞めろマジで!」

「んふふ……」


 またしてもベタベタと擦り寄ってくる猫宮を引き剥がそうと苦戦する最中、さっきまで友人と会話していた筈の真に、呆れた目で言われる。


「…きみら、まぁた仲良さそうに……あいつら男子生徒、キレてるよ?」

「いや、そうなんだが! こいつが離れねえんだよ、何とかしてくれ!」

「ぜ、絶対離れないもん……」

「……犬斗、何でこうまで好かれてんのに無下に扱うんだよ。意味ないでしょ、それ」

「何故って? そりゃ当然、鬱陶しいからだ!「ふえ…」だーもう泣くんじゃねえな! そう言う所がうざいって言ってんだよ!」


 ざわざわと、いつのまにか人が集まって来る。
 目的は無論、学年トップ3を争う程の(顔だけ)美少女の猫宮と、対比的に学年1の地味男の称号は硬いであろう俺と言う不釣り合いすぎる組み合わせでのいちゃいちゃ(傍目)の見物。

 ついでに言えば、殆どの人間にとって顔馴染みである真がいる事も、近付くのに抵抗をなくす要因だろう。

 無責任に視線を逸らし、白々しく口笛を吹く真を睨む。


「おい真、何でスルーしてんだ原因半分お前だろ!」

「そ、そうだよ真さ「お前がもう半分だろうが!」うぇぇ…」


 ったく、こいつはいつもいつも……


 呆れ眼で猫宮を眺める俺に気付いたのか、真が、にやにやと俺の顔を覗き込む。


「おやおや犬斗さんや、彼女さんを注視してどうしたんですかねぇ?」

「そんなんじゃねえよ知ってんだろお前!」


『かのっ……』と呟いたのち硬直して石になった猫宮をこれ幸いと引き剥がし、真に向き直る。



 ……やっぱり。こいつの姿は、昔何処かで見た事がある。そんな風に思う事が、たまにある。
最も、中学時代に一瞬話して、名前を教えた事があるだけのその少女とはーーそもそも、性別すら違うが。

 雰囲気や佇まい、顔の造りが何処と無く似ているからそんな既視感にかられるのだろうが。流石に、他人の空似だろう。


 硬直したまま倒れ込んだ猫宮を起こす俺は、気ままに背伸びをする真を見て、そう、何と無く思った。


「なにか言いたいことでもあるのか?」

「いやなにも」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...