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ネコミミ幼馴染ととある日曜日

1匹目 『朝起きたら幼馴染がネコミミだったんだけどどうしたら良いだろう?』

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「…にゃ~」

「……何言ってんだ」


 今、俺の眼前には1人の少女が寝そべっている。頭にネコミミを生やした、黒髪ロングの美少女が。

 安物のベッドの上、日曜日の朝。少し開いたカーテンの隙間からは、窓を越して伝わる冷気と、それを中和するかの様な暖かな陽射しが射し込む。

 目が覚めたその時から、しばらくこんな調子だ。


 ……どうしたものか。



 ーーー時は、1時間前に遡る。

 ◆◇◆


 ーーはぁ、良く寝たわ。

 金曜日、定期考査も終わり、勉強漬けで寝不足だった先週も終わり、土曜日を悠々自適に過ごした俺は、晴れやかな気持ちで休日の最後、日曜日の朝を迎えて居た。

 …てか、さっきからやけに温かいな……


 目覚めの快適さの要因の1つである、妙な温かさ。そりゃ毛布に包まっているのだから、当然と言えば当然なのだが……

 ………この感覚は、そう言う防寒的なものでなく、もっとこうーー言うならば、人肌の様な。


 そこで俺は、ようやく、これまで開いて居なかった目を薄く開いた。


「……あ、おはよう、犬斗(けんと)」

「ん……?」


 その瞬間、俺の耳に届いたその声。

 学校では殆ど呼ぶものがおらず、そも、クラスメイトに覚えられているかどうかすら怪しげな俺の名前を呼ぶ人間と言えば、心当たりは4人しかいない。


 その内2人、両親は田舎の故郷で畑を耕しているはずだし、もう1人は、こんな時間帯に関わる間柄でもない。さっき時間を見たら早朝6時だ。少なくともは、こんな時間に起きるとは思えない。


 となると、残るは1人。



 ーー「……猫宮(ねこみや)、なんで俺の部屋にいる。そして、なんで俺のベッドに潜り込んでる。加えて言うとーー」


 目を覚ました俺の眼に、本日最初に飛び込んでいたその姿。

 艶やかな長い黒髪に、鋭くもどこか惚けた印象を受ける金色の猫目。鼻梁は高く、唇はゼリーの様に弾む。

 総合すれば、所謂“超絶美少女”。文句の付けようがない可愛さを持った、少なくとも俺に構うには余りにも不釣り合いなーー俺の、幼馴染だ。


 名を、『猫宮(ねこみや) 奏(かなで)』とするそいつは、現在、



「……なんで、付けてんだ」

「………にゃ~」


 ◆◇◆



 ……と、そんな事があり、だ。


 現在時刻は午前7時。そろそろテレビでは子供向けアニメーション番組が放映される頃だし、6時に起きた俺は、いい加減朝食を済ませていても良い筈の時間帯だ。

 だが、脳内に思い浮かべるそんな情景とは正反対に、俺は未だ、猫宮と共にベッドに入っていた。

「…犬斗、ネコが好きって言ってたから、にゃ~」


 明らかに無理をしているとしか思えない鳴き声もどきを発しながら、猫宮は謎の弁解ーーこの奇行に踏み切るに至った経緯を説明しているし。

 頭上の電話からは、定期的に目覚ましが鳴っては、猫宮が手を伸ばして、苦戦しつつ止めているし。


 と言うか、ちょうっっと言いたい事がある。





 ーーーーーなんで、こんな状況になってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!ーーーと。


 いやね? まあ別にこの状況がいやな訳ではないんだがな? 猫宮とは幼少期からの付き合いだし、小学校までは風呂も入ってた。多少距離が近い程度なら、驚愕こそすれど発情はしない。


 ーーでも、なんでネコミミなんか付けてんだよ!!!

 こいつが言うには“ネコが好きだと言っていたから”だそうだ。確かにそれは事実で、俺は自他共に公言するネコ好きでもある。言ったのは数年前だけどなぁ!!?

 それを今になって掘り返すとか、明らかにあからさまに言い訳にしか聞こえねえよ、いや実際言い訳なんだろうけどな!


 で、だ。まあ潜り込むまでは良しとしよう。いや、色々良くはないけど。

 だが、それで俺がベッドから抜け出そうとしたら、腕とか掴んで防ごうとするのはなんなんだよ! 強引に振り解こうとしたら折れる、とまでは行かずとも何らかの怪我をしそうな程度にはこいつの力は弱いし、その前提で無理に脱出とか出来る訳ねえじゃん!

 故に俺は、こう想う。



 ーーネコミミ幼馴染の妨害をかいくぐって、どうやってこのベッドから抜け出したら良いだろう?



 猫宮が、またしても「にゃ~」と、そう鳴いた。
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