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十五話
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15話
ご主人様とリヴさんの再会の抱擁から数分が経った。
2人とも落ち着いたのか、鼻をすする音は聞こえるが泣き声は聞こえない。
ええ、はい。流石にこれを揶揄うのは無粋だというのはわかっていますから、しませんよ?
「……すまない。取り乱した」
イヴさんはそう言って、ローブの裾で目元を拭った。
ご主人さまも袖で目元を拭おうとしたが、そんなことをさせるのはメイドとしてのプライドが許さない。
私はご主人さまの横にそっと移動して綺麗なタオルを渡した。
そしてすぐさまもとのいた場所に戻る。
「……すまん。ありがとう」
ご主人さま、メイドは使用人です。いちいちお礼なんてする必要ないんですよ?
と、毒づきたくなったが言葉を飲み込んで心の中でため息を吐く。
ちーんという鼻をかむ音がご主人さまの方から聞こえた。
……鼻はティッシュでかんでくださいよ。まあ別に使い捨てのタオルなので問題ないんですけど。
「––改めて。久しぶりだね、ノア」
イヴさんはこほんと咳払いをしたあと、被っていたフードを取った。
そこから露わになったのは、金色の髪、濃い碧眼。
肌は色白く、誰が見ても美青年と驚嘆せざるを得ない、そんな顔をしていた。
カッコいいというよりかは、美人といったほうがしっくり来ますね。
「ああ。久しぶり、リヴ」
するとリヴさんは私の方をチラリと見て、再びご主人さまの方を向いてニヤリと笑った。
「それでそちらの女性は……お前のこれかい?」
と言って、リヴさんは薬指を立てた。
ご主人さまが何かいう前に、私はその言葉をすぐさま否定する。
「私とご主人さまがそのような関係になるなんてあり得ません。私はただのメイドですので」
ガチトーンの声と真顔で否定されたことに驚いたのか、イヴさんは「そ、そうか」と言って助けを求めるかのような視線をご主人さまに送った。
「……あー、こいつの名前はイア。僕がこれまで生きて入られたのは、こいつのお陰だ」
そう言ってご主人さまはポンと私の頭に手を置いてきた。
ニコリと笑みを浮かべて、私はその手をパシンとはたき落とす。
するとご主人さまは叩かれた手を押さえて、涙目で私を見つめてきた。
……自業自得でしょう。明らかに私の頭に手を置いてきたご主人さまが悪い。
そんな私たちの様子を見て、リヴさんは苦笑いを浮かべていた。
「––ノア。そんな無闇に女性に触ったらダメだよ。彼女とはただの主従関係なんだろう?」
おお、ご主人さまの友人とは思えないほどの紳士っぷり。もっと言っちゃってください!
「……前にも言われた気がするな。デリカシーがなさすぎるって」
「ノアはもう少し女性について勉強したほうがいいと思うよ?」
割と本気なトーンでリヴさんがご主人さまに言った。
それに気づいたのか、ご主人さまはそっと目を逸らした。
「––さて、前置きはこれくらいにして。俺の名前はイヴ・フォン・リュトゥーア。この国の皇太子だ。イア殿、こいつを、ノアを守ってくれてありがとう」
「……なんのことでしょう。私はノアさまとともに生き残れた唯一の使用人でございますが」
「隠さなくてもいいよ。イア殿、あなたは悪魔でしょう?」
あらまあ。どうやらイヴさんには何故か私の正体がバレていたようだ。
私がチラリとご主人さまに視線を送ると、ご主人さまはコクリと頷いた。
つまり、話しても問題ないということですね。
「さすがは賢王の再来と言われるだけのことはありますね。ええ、私の名前はイア。ご主人さまと契約した、生まれたての悪魔でございます」
そう言って薄っすらと笑みを浮かべると、軽く目を見張ってからリヴさんはふっと笑みを浮かべた。
「あなたが生まれたての悪魔だなんて……ははは、冗談はよして下さいよ?」
冗談ではないんだけどね……、まあいいか。
とりあえず私は意味ありげな笑みを顔に貼り付けておいた。
「とりあえずここで立ち話もなんだし、中に入ろうか。父上と母上に君が無事だったことを伝えないとね」
イヴさんは再びフードをかぶり、ご主人さまの手を引っ張った。
「おわっ?!」と言ってバランスを崩したご主人さまを持ち上げると、彼は俗に言う「お姫様抱っこ」をした。
「ッ?!おいイヴ、降ろせ!」
「ふふふ、相変わらず君は可愛いね。ノア、俺の嫁に来ないかい?」
「もうその冗談は聞き飽きた!それに僕は男だとなんども言ってるだろう?!」
「冗談とわかっているならそんなにムキにならなくてもいいんじゃないかい?––さてイア殿。俺とノアは気配をこれで隠蔽して中に入るが、貴殿は《隠密》を使えるか?」
戦闘メイドには隠密等の技能は必須ですからね、当然持っていますよ!
「ええ。問題なく使えます」
「なら良かった。それでは俺の後をついてきて下さい」
イヴさんは身を翻し、ご主人さまを抱えたまま城壁へと向かって駆け出した。
私も馬車を収納してから《隠密》を使い、アルジェントを脇に抱えてイヴさんの後を追う。
その衝撃で目が覚めたのか、アルジェントがうん……?と言いながら目を覚ました。
暢気に目をこすりながら、キョロキョロと辺りを見回している。
「ん、おお?おいイア。目的地に着いたのか……?」
「おはようございます、アルジェント。ええ、目的地には無事着きましたよ」
「そうか。んで、オレはなんでお前に抱えられてんだ?」
間抜けそうな顔をしてアルジェントが聞いてきた。
現状を理解していない彼女に対し無性にイラっとしたが、悪魔はそんなことでは怒らないだろうと思い、私は心の中でお。せ。ん。べ。い。と唱えてなんとか平常心を保った。
うーん、なんだか悪魔という存在が私の中で都合のいいものになっているような……。
うん、気にしないようにしよう。
「さて、それは自分で考えてみてください。……跳ぶので少し黙っていて下さい。舌を噛みますよ」
イヴさんが城壁を駆け上っているのが見えたので、アルジェントに一応忠告しておく。
……それにしても、イヴさんって、ただの人間ですやけ?
スキルを使ったように見えないませんし、いったいどうやって……。
イヴさんに対し軽く戦々恐々しながら、私は足と脚に力を込めて思いっきり跳んだ。
その際地面からビキッという日々の入る音が聞こえたが、毎度いつものことだ。気にしないことにしよう。
「おいどういうッ?!ッ~~!!」
何かを口にしようとしたアルジェントだったが、案の定舌を噛んでしまったようだ。
口を押さえて涙目になりながら悶えていた。
ふふふ、ざまあないですね。
「これは驚いた。まさか跳ぶだけで城壁を飛び超えられるなんて……。城壁の高さの見直しも必要か……?」
イヴさんは私が軽々しく城壁を飛び越えたのを見て、神妙な顔をした。
……もしかして、普通は城壁を飛び越えるのって無理なのかな?
いやでもこの世界にはドラゴンとか魔族とかもいるし、魔法とかもあるし……。
「えっと、もしかして飛び越えたらダメなやつでした?」
少しだけ首を傾げて聞くと、イヴさんはなんでもない、と言って笑みを浮かべた。
ご主人さまは彼に抱えられた状態で、普通はできんぞとでも言いたげな目で見つめてきた。
うーん。必要なスキルさえ持っていれば誰でもできるような気がするんだけど……、どういうことだろ。
今度調べてみようかな。
「––さて、次はここから飛び降りるよ。ノア、しっかりと捕まっていてね?」
笑顔でそう告げられたご主人さまは顔に浮かべていた表情をピシリとフリーズさせた。
顔はみるみるうちに青くなっていき、額には汗が滲んでいた。
「か、階段があるだろう?!ここに登るための」
「あるけどそこを使うわけにはいかないだろう?流石にイア殿の《隠密》ならともかくこのフードの《隠蔽》では熟練の兵士の目はごまかせない」
イヴさんは焦燥しきったご主人さまを気にも止めずに、ぴょんと城壁から飛び降りた。
「え、おい。ちょ、まだ心の準備があぁぁぁぁぁぁ?!」
ご主人さまの絶叫が段々と遠のいていく。
「さて、私たちもいきますよ」
「おう!なんか面白そうだしいつでもいいぞ!」
まったく、ご主人さまにこれくらいの度胸があれば良いんですけどね……。
ご主人様とリヴさんの再会の抱擁から数分が経った。
2人とも落ち着いたのか、鼻をすする音は聞こえるが泣き声は聞こえない。
ええ、はい。流石にこれを揶揄うのは無粋だというのはわかっていますから、しませんよ?
「……すまない。取り乱した」
イヴさんはそう言って、ローブの裾で目元を拭った。
ご主人さまも袖で目元を拭おうとしたが、そんなことをさせるのはメイドとしてのプライドが許さない。
私はご主人さまの横にそっと移動して綺麗なタオルを渡した。
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「……すまん。ありがとう」
ご主人さま、メイドは使用人です。いちいちお礼なんてする必要ないんですよ?
と、毒づきたくなったが言葉を飲み込んで心の中でため息を吐く。
ちーんという鼻をかむ音がご主人さまの方から聞こえた。
……鼻はティッシュでかんでくださいよ。まあ別に使い捨てのタオルなので問題ないんですけど。
「––改めて。久しぶりだね、ノア」
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そこから露わになったのは、金色の髪、濃い碧眼。
肌は色白く、誰が見ても美青年と驚嘆せざるを得ない、そんな顔をしていた。
カッコいいというよりかは、美人といったほうがしっくり来ますね。
「ああ。久しぶり、リヴ」
するとリヴさんは私の方をチラリと見て、再びご主人さまの方を向いてニヤリと笑った。
「それでそちらの女性は……お前のこれかい?」
と言って、リヴさんは薬指を立てた。
ご主人さまが何かいう前に、私はその言葉をすぐさま否定する。
「私とご主人さまがそのような関係になるなんてあり得ません。私はただのメイドですので」
ガチトーンの声と真顔で否定されたことに驚いたのか、イヴさんは「そ、そうか」と言って助けを求めるかのような視線をご主人さまに送った。
「……あー、こいつの名前はイア。僕がこれまで生きて入られたのは、こいつのお陰だ」
そう言ってご主人さまはポンと私の頭に手を置いてきた。
ニコリと笑みを浮かべて、私はその手をパシンとはたき落とす。
するとご主人さまは叩かれた手を押さえて、涙目で私を見つめてきた。
……自業自得でしょう。明らかに私の頭に手を置いてきたご主人さまが悪い。
そんな私たちの様子を見て、リヴさんは苦笑いを浮かべていた。
「––ノア。そんな無闇に女性に触ったらダメだよ。彼女とはただの主従関係なんだろう?」
おお、ご主人さまの友人とは思えないほどの紳士っぷり。もっと言っちゃってください!
「……前にも言われた気がするな。デリカシーがなさすぎるって」
「ノアはもう少し女性について勉強したほうがいいと思うよ?」
割と本気なトーンでリヴさんがご主人さまに言った。
それに気づいたのか、ご主人さまはそっと目を逸らした。
「––さて、前置きはこれくらいにして。俺の名前はイヴ・フォン・リュトゥーア。この国の皇太子だ。イア殿、こいつを、ノアを守ってくれてありがとう」
「……なんのことでしょう。私はノアさまとともに生き残れた唯一の使用人でございますが」
「隠さなくてもいいよ。イア殿、あなたは悪魔でしょう?」
あらまあ。どうやらイヴさんには何故か私の正体がバレていたようだ。
私がチラリとご主人さまに視線を送ると、ご主人さまはコクリと頷いた。
つまり、話しても問題ないということですね。
「さすがは賢王の再来と言われるだけのことはありますね。ええ、私の名前はイア。ご主人さまと契約した、生まれたての悪魔でございます」
そう言って薄っすらと笑みを浮かべると、軽く目を見張ってからリヴさんはふっと笑みを浮かべた。
「あなたが生まれたての悪魔だなんて……ははは、冗談はよして下さいよ?」
冗談ではないんだけどね……、まあいいか。
とりあえず私は意味ありげな笑みを顔に貼り付けておいた。
「とりあえずここで立ち話もなんだし、中に入ろうか。父上と母上に君が無事だったことを伝えないとね」
イヴさんは再びフードをかぶり、ご主人さまの手を引っ張った。
「おわっ?!」と言ってバランスを崩したご主人さまを持ち上げると、彼は俗に言う「お姫様抱っこ」をした。
「ッ?!おいイヴ、降ろせ!」
「ふふふ、相変わらず君は可愛いね。ノア、俺の嫁に来ないかい?」
「もうその冗談は聞き飽きた!それに僕は男だとなんども言ってるだろう?!」
「冗談とわかっているならそんなにムキにならなくてもいいんじゃないかい?––さてイア殿。俺とノアは気配をこれで隠蔽して中に入るが、貴殿は《隠密》を使えるか?」
戦闘メイドには隠密等の技能は必須ですからね、当然持っていますよ!
「ええ。問題なく使えます」
「なら良かった。それでは俺の後をついてきて下さい」
イヴさんは身を翻し、ご主人さまを抱えたまま城壁へと向かって駆け出した。
私も馬車を収納してから《隠密》を使い、アルジェントを脇に抱えてイヴさんの後を追う。
その衝撃で目が覚めたのか、アルジェントがうん……?と言いながら目を覚ました。
暢気に目をこすりながら、キョロキョロと辺りを見回している。
「ん、おお?おいイア。目的地に着いたのか……?」
「おはようございます、アルジェント。ええ、目的地には無事着きましたよ」
「そうか。んで、オレはなんでお前に抱えられてんだ?」
間抜けそうな顔をしてアルジェントが聞いてきた。
現状を理解していない彼女に対し無性にイラっとしたが、悪魔はそんなことでは怒らないだろうと思い、私は心の中でお。せ。ん。べ。い。と唱えてなんとか平常心を保った。
うーん、なんだか悪魔という存在が私の中で都合のいいものになっているような……。
うん、気にしないようにしよう。
「さて、それは自分で考えてみてください。……跳ぶので少し黙っていて下さい。舌を噛みますよ」
イヴさんが城壁を駆け上っているのが見えたので、アルジェントに一応忠告しておく。
……それにしても、イヴさんって、ただの人間ですやけ?
スキルを使ったように見えないませんし、いったいどうやって……。
イヴさんに対し軽く戦々恐々しながら、私は足と脚に力を込めて思いっきり跳んだ。
その際地面からビキッという日々の入る音が聞こえたが、毎度いつものことだ。気にしないことにしよう。
「おいどういうッ?!ッ~~!!」
何かを口にしようとしたアルジェントだったが、案の定舌を噛んでしまったようだ。
口を押さえて涙目になりながら悶えていた。
ふふふ、ざまあないですね。
「これは驚いた。まさか跳ぶだけで城壁を飛び超えられるなんて……。城壁の高さの見直しも必要か……?」
イヴさんは私が軽々しく城壁を飛び越えたのを見て、神妙な顔をした。
……もしかして、普通は城壁を飛び越えるのって無理なのかな?
いやでもこの世界にはドラゴンとか魔族とかもいるし、魔法とかもあるし……。
「えっと、もしかして飛び越えたらダメなやつでした?」
少しだけ首を傾げて聞くと、イヴさんはなんでもない、と言って笑みを浮かべた。
ご主人さまは彼に抱えられた状態で、普通はできんぞとでも言いたげな目で見つめてきた。
うーん。必要なスキルさえ持っていれば誰でもできるような気がするんだけど……、どういうことだろ。
今度調べてみようかな。
「––さて、次はここから飛び降りるよ。ノア、しっかりと捕まっていてね?」
笑顔でそう告げられたご主人さまは顔に浮かべていた表情をピシリとフリーズさせた。
顔はみるみるうちに青くなっていき、額には汗が滲んでいた。
「か、階段があるだろう?!ここに登るための」
「あるけどそこを使うわけにはいかないだろう?流石にイア殿の《隠密》ならともかくこのフードの《隠蔽》では熟練の兵士の目はごまかせない」
イヴさんは焦燥しきったご主人さまを気にも止めずに、ぴょんと城壁から飛び降りた。
「え、おい。ちょ、まだ心の準備があぁぁぁぁぁぁ?!」
ご主人さまの絶叫が段々と遠のいていく。
「さて、私たちもいきますよ」
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