メイドな悪魔のロールプレイ

ガブ

文字の大きさ
上 下
15 / 18

十五話

しおりを挟む
15話


ご主人様とリヴさんの再会の抱擁から数分が経った。
2人とも落ち着いたのか、鼻をすする音は聞こえるが泣き声は聞こえない。

ええ、はい。流石にこれを揶揄うのは無粋だというのはわかっていますから、しませんよ?

「……すまない。取り乱した」

イヴさんはそう言って、ローブの裾で目元を拭った。
ご主人さまも袖で目元を拭おうとしたが、そんなことをさせるのはメイドとしてのプライドが許さない。
私はご主人さまの横にそっと移動して綺麗なタオルを渡した。
そしてすぐさまもとのいた場所に戻る。

「……すまん。ありがとう」

ご主人さま、メイドは使用人です。いちいちお礼なんてする必要ないんですよ?
と、毒づきたくなったが言葉を飲み込んで心の中でため息を吐く。

ちーんという鼻をかむ音がご主人さまの方から聞こえた。
……鼻はティッシュでかんでくださいよ。まあ別に使い捨てのタオルなので問題ないんですけど。

「––改めて。久しぶりだね、ノア」

イヴさんはこほんと咳払いをしたあと、被っていたフードを取った。
そこから露わになったのは、金色の髪、濃い碧眼。
肌は色白く、誰が見ても美青年と驚嘆せざるを得ない、そんな顔をしていた。

カッコいいというよりかは、美人といったほうがしっくり来ますね。

「ああ。久しぶり、リヴ」

するとリヴさんは私の方をチラリと見て、再びご主人さまの方を向いてニヤリと笑った。

「それでそちらの女性は……お前のこれかい?」

と言って、リヴさんは薬指を立てた。
ご主人さまが何かいう前に、私はその言葉をすぐさま否定する。

「私とご主人さまがそのような関係になるなんてあり得ません。私はただのメイドですので」

ガチトーンの声と真顔で否定されたことに驚いたのか、イヴさんは「そ、そうか」と言って助けを求めるかのような視線をご主人さまに送った。

「……あー、こいつの名前はイア。僕がこれまで生きて入られたのは、こいつのお陰だ」

そう言ってご主人さまはポンと私の頭に手を置いてきた。
ニコリと笑みを浮かべて、私はその手をパシンとはたき落とす。
するとご主人さまは叩かれた手を押さえて、涙目で私を見つめてきた。

……自業自得でしょう。明らかに私の頭に手を置いてきたご主人さまが悪い。

そんな私たちの様子を見て、リヴさんは苦笑いを浮かべていた。

「––ノア。そんな無闇に女性に触ったらダメだよ。彼女とはただの主従関係なんだろう?」

おお、ご主人さまの友人とは思えないほどの紳士っぷり。もっと言っちゃってください!

「……前にも言われた気がするな。デリカシーがなさすぎるって」
「ノアはもう少し女性について勉強したほうがいいと思うよ?」

割と本気なトーンでリヴさんがご主人さまに言った。
それに気づいたのか、ご主人さまはそっと目を逸らした。

「––さて、前置きはこれくらいにして。俺の名前はイヴ・フォン・リュトゥーア。この国の皇太子だ。イア殿、こいつを、ノアを守ってくれてありがとう」
「……なんのことでしょう。私はノアさまとともに生き残れた唯一の使用人でございますが」
「隠さなくてもいいよ。イア殿、あなたは悪魔でしょう?」

あらまあ。どうやらイヴさんには何故か私の正体がバレていたようだ。
私がチラリとご主人さまに視線を送ると、ご主人さまはコクリと頷いた。

つまり、話しても問題ないということですね。

「さすがは賢王の再来と言われるだけのことはありますね。ええ、私の名前はイア。ご主人さまと契約した、生まれたての悪魔でございます」

そう言って薄っすらと笑みを浮かべると、軽く目を見張ってからリヴさんはふっと笑みを浮かべた。

「あなたが生まれたての悪魔だなんて……ははは、冗談はよして下さいよ?」

冗談ではないんだけどね……、まあいいか。
とりあえず私は意味ありげな笑みを顔に貼り付けておいた。

「とりあえずここで立ち話もなんだし、中に入ろうか。父上と母上に君が無事だったことを伝えないとね」

イヴさんは再びフードをかぶり、ご主人さまの手を引っ張った。
「おわっ?!」と言ってバランスを崩したご主人さまを持ち上げると、彼は俗に言う「お姫様抱っこ」をした。

「ッ?!おいイヴ、降ろせ!」
「ふふふ、相変わらず君は可愛いね。ノア、俺の嫁に来ないかい?」
「もうその冗談は聞き飽きた!それに僕は男だとなんども言ってるだろう?!」
「冗談とわかっているならそんなにムキにならなくてもいいんじゃないかい?––さてイア殿。俺とノアは気配をこれで隠蔽して中に入るが、貴殿は《隠密》を使えるか?」

戦闘メイドには隠密等の技能は必須ですからね、当然持っていますよ!

「ええ。問題なく使えます」
「なら良かった。それでは俺の後をついてきて下さい」

イヴさんは身を翻し、ご主人さまを抱えたまま城壁へと向かって駆け出した。
私も馬車を収納してから《隠密》を使い、アルジェントを脇に抱えてイヴさんの後を追う。
その衝撃で目が覚めたのか、アルジェントがうん……?と言いながら目を覚ました。
暢気に目をこすりながら、キョロキョロと辺りを見回している。

「ん、おお?おいイア。目的地に着いたのか……?」
「おはようございます、アルジェント。ええ、目的地には無事着きましたよ」
「そうか。んで、オレはなんでお前に抱えられてんだ?」

間抜けそうな顔をしてアルジェントが聞いてきた。
現状を理解していない彼女に対し無性にイラっとしたが、悪魔はそんなことでは怒らないだろうと思い、私は心の中でお。せ。ん。べ。い。と唱えてなんとか平常心を保った。

うーん、なんだか悪魔という存在が私の中で都合のいいものになっているような……。
うん、気にしないようにしよう。

「さて、それは自分で考えてみてください。……跳ぶので少し黙っていて下さい。舌を噛みますよ」

イヴさんが城壁を駆け上っているのが見えたので、アルジェントに一応忠告しておく。

……それにしても、イヴさんって、ただの人間ですやけ?
スキルを使ったように見えないませんし、いったいどうやって……。

イヴさんに対し軽く戦々恐々しながら、私は足と脚に力を込めて思いっきり跳んだ。
その際地面からビキッという日々の入る音が聞こえたが、毎度いつものことだ。気にしないことにしよう。

「おいどういうッ?!ッ~~!!」

何かを口にしようとしたアルジェントだったが、案の定舌を噛んでしまったようだ。
口を押さえて涙目になりながら悶えていた。

ふふふ、ざまあないですね。

「これは驚いた。まさか跳ぶだけで城壁を飛び超えられるなんて……。城壁の高さの見直しも必要か……?」

イヴさんは私が軽々しく城壁を飛び越えたのを見て、神妙な顔をした。

……もしかして、普通は城壁を飛び越えるのって無理なのかな?
いやでもこの世界にはドラゴンとか魔族とかもいるし、魔法とかもあるし……。

「えっと、もしかして飛び越えたらダメなやつでした?」

少しだけ首を傾げて聞くと、イヴさんはなんでもない、と言って笑みを浮かべた。
ご主人さまは彼に抱えられた状態で、普通はできんぞとでも言いたげな目で見つめてきた。

うーん。必要なスキルさえ持っていれば誰でもできるような気がするんだけど……、どういうことだろ。
今度調べてみようかな。

「––さて、次はここから飛び降りるよ。ノア、しっかりと捕まっていてね?」

笑顔でそう告げられたご主人さまは顔に浮かべていた表情をピシリとフリーズさせた。
顔はみるみるうちに青くなっていき、額には汗が滲んでいた。

「か、階段があるだろう?!ここに登るための」
「あるけどそこを使うわけにはいかないだろう?流石にイア殿の《隠密》ならともかくこのフードの《隠蔽》では熟練の兵士の目はごまかせない」

イヴさんは焦燥しきったご主人さまを気にも止めずに、ぴょんと城壁から飛び降りた。

「え、おい。ちょ、まだ心の準備があぁぁぁぁぁぁ?!」

ご主人さまの絶叫が段々と遠のいていく。

「さて、私たちもいきますよ」
「おう!なんか面白そうだしいつでもいいぞ!」

まったく、ご主人さまにこれくらいの度胸があれば良いんですけどね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Koruseit world online〜魔力特化した私は体力10しかありません。なので幻術使ってどうにかしたいと思います〜

ゆうらしあ
SF
それは、あらゆる生物と心通わせるVRゲーム。その名もKoruseit world online。 都内に住む29歳OLの四月一日 春(わたぬき はる)は、ブラック企業で仕事をしており、彼氏も出来ず、不毛な毎日を送っていた。 ある時電話で弟から、面白そうなゲームがある!癒しとか求めてるねーちゃんにぴったり!と言われ電話をぶち切った私は、そのゲームを衝動買い。 後悔したものの、『生きる為に何をする?限定された時間で何をする?癒しと刺激を貴方に。』というパッケージに気持ちはぶち上がり! よし、やってみるか。 私の退屈な日常に少しでも癒しと刺激をくれ。 やがて『幻想姫』と呼ばれる様になり、敬われ、恐れられる、そんなゲームライフが今始まる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

アラロワ おぼろ世界の学園譚

水本茱萸
SF
——目覚めたら、すべてが「おぼろげ」な世界—— ある日を境に、生徒たちは気づく。自分たちの記憶が「二重」に重なり合っていることに。前の世界の記憶と、今の世界の記憶。しかし、その記憶は完全なものではなく、断片的で曖昧で「おぼろげ」なものだった。 謎の存在「管理者」により、失われた世界から転生した彼らを待っていたのは、不安定な現実。そこでは街並みが変わり、人々の繋がりが揺らぎ、時には大切な人の存在さえも「おぼろげ」になっていく。 「前の世界」での記憶に苦しむ者、現実から目を背ける者、真実を追い求める者——。様々な想いを抱えながら、彼らの高校生活が始まる。これは、世界の片隅で紡がれる、いつか明晰となる青春の群像劇。 ◎他サイトにも同時掲載中です。

不遇ステータス《魅力》に極降りした結果、《姫》になりました

俊郎
SF
ネットゲームにおいての《姫》とは、仲間内でちやほやされ、何かの役に立たなくとも、そこに居るだけで癒しを振り撒き、有り難がられる存在のことである。 深田馨は好きな女の子にフラれたことをきっかけに、偶々目の前にあった最新ゲームに手を出した。 ゲームの名前は《カスタムポジビリティオンライン》。 魅力的な自分に憧れて、カオルは《魅力》のステータスに極降り。そのせいか、ランダムで決まったクラスはプリンセス。 キャラクターまで美少女と化したカオルは、何故か集まってくる奇妙キテレツなプレイヤー&NPC達に姫だなんだと崇められ、最強の姫ギルドが爆誕する。 そんな、騒がしくも楽しいゲームライフをまったり楽しむお話である。 まったりVRMMOものです。 皆様の応援がモチベーションに直結しますので、ブックマーク、感想、評価、レビュー等、是非ともよろしくお願いします! この作品は小説家になろう様で先行公開しております。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

処理中です...