メイドな悪魔のロールプレイ

ガブ

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十一話

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11話



「–––ま」

……寝ている私を誰かが起こそうとしている。少女か、まだ変声期を迎えていない男児のような声だ。
……本来なら悪魔族に睡眠など必要ないのだが、別に寝れないわけではない。嗜好品としては楽しめるのだ。

「お–––き–––く–––」

おきく……人の名前かな?なら私ではなく別の誰かを呼んでいるんだろう。ならもう一度寝て–––

「–––起きろと言うのが聞こえないのか!この駄メイド悪魔ッ!」
「ひょわっ?!」

突然の怒鳴り声に、思わず奇声を上げてしまった。飛び起きた目の前にはご主人様の顔があった。

「おはようございます。ご主人様。駄メイドは余計でございます」
「……そのご主人様がピンチになっているのに寝ているお前が駄メイドではないと?」

ピンチになっている?疑問に思った私は、蟻程度の魔力しかない見知らぬ人間が気配察知に引っかかっていることに気づいた。

「……前に5人、背後に6人ですか」
「ああ。御者のやつは中に俺がいることを盗賊に告げて、金貨を手に握らせて逃げやがった」

ご主人様ははあ、と大きくため息を吐いた。
おそらくですが商人と盗賊の間に暗黙の了解があるんでしょう。それか盗賊の頭が悪いか。
このどちらかですね。

「ヒャッハァ!!女と荷物置いてを置いていきな!そしたら命だけは助けてやるよ!二人乗ってることはわかっているんだぜ!」

野太い男の嘲るような声が聞こえた。どうやら私がいることは盗賊にバレてしまっているようだ。

「……蹴散らしますか?」
「……ああ、命令だ。あの–––クズを体現したような盗賊どもを蹴散らせ」
「かしこまりました。蹴って散らします」

私はニッコリと笑みを浮かべて返事をし、馬車から降りた。そして私は見た感じ盗賊の親玉っぽい男に視線を向けた。

「ははっ!男じゃなくて女が出てきやがったぞ!お前の相方か?腑抜けた野郎だな!」

盗賊の親玉らしき男はご主人様をバカにするような発言をして、私に対し不躾な視線を向けてきた。
ご主人様が腑抜けという点には激しく同意しますね。もって言っちゃってください。

「それにしても……結構な上玉だな。散々楽しんでから奴隷商にでも売り飛ばしてやるよ!」

盗賊の親玉らしき男は舌舐めずりをして、他の盗賊たちもそれに同調するようにニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

「はあ。ご主人様の命令です。蹴って散らさせていただきます」
「はっ!女ごときがなにを–––」

パァン、ベチャッ。何かが破裂し、飛び散るような音が私の耳に入った。

「女ごときが、なんですって?」

盗賊の親玉らしき男に私は聞き返すも、返事はない。なぜなら彼は、私の蹴りでその身が飛び散ってしまったからだ。

『経験値を5万6000獲得しました。Lvが13→14に上昇しました。HP、MP、SPが100上昇しました。SLPを1獲得しました』

『魂食により経験値を5万6000獲得しました』

『一定の条件を達成したことにより、戦闘技能〈爆裂脚〉を体得しました』

なぜか蟻程度の魔力しかない盗賊の経験値があのドラゴンの二倍以上あった。
ということは、魔物を殺すよりNPCを殺した方が経験値の効率がいい……?

「まあ、今は盗賊の殲滅が先ですね」

私は顔を青くしてこちらを見ている盗賊たちに視線を向けた。
盗賊たちは私の視線が自分たちに向いていることに気づいたのか、表情を強張らせて

「ひっ……!!に、逃げろ!!」

踵を返し、私に背中を向けて走り出した。敵を前に背を向けて逃げるとは、殺してくださいと言っているのと同じですよ?

「すみませんが、ご主人様には全員蹴散らせと言われておりますので、逃亡は許しませんよ?」

私はニッコリと笑みを浮かべてそう呟き、地面を力強く蹴った。

「二人目」

空中で身体を捻り、回し蹴りを喰らわせた。パアンという音を立てて、二人目の盗賊は断末魔の悲鳴をあげる間も無く、その身を散らした。

『経験値を4万1000獲得しました』

『魂食により経験値を4万1000獲得しました。Lvが14→15に上昇しました。HP、MP、SPが100上昇しました。SLPを2獲得しました』

『一定の条件を満たしたことにより、戦闘技能〈回転脚〉を体得しました』

全身に血を被ってしまうが、あとで綺麗にすればいいので気にしない気にしない。

「三人目」

身を小さく屈め、地面を蹴った。……いったいどれくらいのスピードが出ているのだろうか。蹴っただけで人の体が爆散する速さである。私には想像がつかない。

–––私は空中で身体を半回転させ、某ゲームの主人公が徘徊している敵を踏み潰すように、盗賊を蹴り潰した。

『経験値を4万2000獲得しました』

『魂食により経験値を4万2000獲得しました』

盗賊はあと八人。遠くに行かれては探すのが面倒くさくなるかもしれないし、パパッとやっちゃおうか。

私はインベントリから二本のテーブルナイフを取り出して、それぞれ一本ずつ盗賊へと投擲した。

二本のテーブルナイフは木々の合間を縫って見事盗賊の頭に突き刺さった。

『腕力上昇のレベルが【2/10】→【3/10】に上昇しました』

『食器戦闘技術のレベルが【2/30】→【4/30】に上昇しました』

『投擲技術のレベルが【3/10】から【4/10】に上昇しました』

『経験値を4万4000獲得しました』

『魂食により経験値を4万4000獲得しました。Lvが15→16に上昇しました。HP、MP、SPが100上昇しました。SLPを1獲得しました』

『経験値を4万6000獲得しました』

『魂食により経験値を4万6000獲得しました』

『称号:〈無慈悲なる者〉がイアに付与されました』

盗賊二人の死を確認した私は、残りの六人を仕留めるために気配察知に意識を集中させた。

「……これは」

森の中へと逃げた六人の盗賊たちは、全員同じところにいた。

「ふーむ、アジトかなにかですかね?」

盗賊のアジトといえば、盗んだ品を溜め込んでいるイメージがあるけど……。うん、潰しに行こう。ついでに戦利品として盗まれた品も頂こう。
その旨をご主人様に伝えるため、私は一旦馬車に戻った。

「……もう終わったのか?」

ご主人様は怪訝そうに、馬車に入ってきた私を見つめてきた。

「いえ、あと六匹ほど残っています。そのことについてなのですが、盗賊のアジトにある盗難品の所有権はどういった風に決められているのでしょうか?」
「……僕の国では盗賊に品を盗まれても自己責任。よっぽどのことじゃない限り国は動かなかったな。盗難品に関しては、見つけたものの好きにしてよかったはずだ」

その言葉に私はニヤリと笑みを浮かべた。おっけーらしいですし、お宝頂戴しに……じゃなくて盗賊を殲滅しに行きましょうか!

「それでは行ってまいります。ご主人様」
「いや、行くってどこへ……。ちょ、ま、おいっ!」

私は馬車を降りて、盗賊たちのアジトであろう場所に向かって一直線に走り出した。

ご主人様、大丈夫です。危険が迫ったら私に通達されるよう、契約術を行なっておりますゆえっ!

「そういう問題じゃないっ!」

そんなご主人様の叫び声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。たぶん。




無造作に置かれたいくつもの酒樽。木で作られたテーブルは年季が入っているようで、ボロボロだ。
椅子は丸太を切り取っただけの簡単なもので、こちらもボロボロだった。
テーブルの上には酒、酒、肉、酒。野菜や果物などは見当たらない。どれだけ不健康な生活をしていたのだろうか。

–––なんて思ったのは先ほどで、現在はその全てが真っ赤に染まっている。

「さて、盗賊はこれで片付きましたかね?」

私は魔銀製のテーブルナイフをインベントリに仕舞い、頰に付着していた血を服の裾で拭った。

『空間魔法のレベルが【2/30】→【3/30】に上昇しました』

『経験値を3万9000×6獲得しました。Lvが16→17に上昇しました。HP、MP、SPが100上昇しました。SLPを1獲得しました』

『魂食により経験値を3万9000×6獲得しました』

血濡れた手袋はそこら辺に捨てて、新しい手袋を創りそれを手にはめた。

胴体から頭が取れかかっている盗賊たちの死体はとりあえず放置しておく。こんなところで燃やしたら大変なことになるからね。

「……おや。どうやら捕まっているものがいるようですね」

正直どうでもいいが、放置したらしたらでご主人様になにかと言われそうなので、捕まっているものを助けに行くことにした。


「……これはこれは。なにかと思えばこんな珍しいものが捕まっているとは」

牢屋の檻に手をかけて、私が入れる程度に無理やり押し曲げた。そこから牢の中へと入る。

「ッ!」

突然目の前にサバイバルナイフのようなものが飛んできた。私は半歩横にずれることでそれを避けた。

私に向かって投擲されたサバイバルナイフのようなものは石でできた壁に柄の部分まで刺さっていた。私を殺すつもりで投げたんだろうと推測できる。

「……なにもんだ、てめえ」

私は牢の奥へと目を向ける。

–––そこにいたのは、一匹の獣だった。いや、獣だったものだった。
黒色の髪、銀色の瞳。何より目立つのは、頭部に生えている黒色の獣耳と、黒色の尻尾だ。
尻尾や耳の形状からして、猫の獣人に至ったものだろうか。

「お初にお目にかかります。私の名はイア。あなたを助けに来たものです」

それにしても初めて見したよ。進化によって獣人に至った魔物なんて。……まあ、初めてみるのが当たり前なんですけどね。このゲーム始めてまだ間もないですし。
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