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XX外伝 ――継ぐべき者たち――

継ぐべき者たち 24

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「お母さまは《イースター》で生まれて、幼少期をそこで過ごした人だったから、他の《イースター》の人たちも、お母さまのことは受け入れてくれていた」
 だからこそ、司が《イースター》のデータベースを書き換えることも許したのだ。他の誰に話すこともなく。
 階の言葉は、まだ続いた。
「《イースター》の人たちは、僕たちが何を訊いても、結局、上辺だけのことしか教えてくれないと思う。あの癌のDNAワクチンを作り出したアンディにさえ、きっと心を開くことはしない……」
 もちろんだ。
 だが、彼らはただ、自分の身を守ろうとしているだけなのだ。
「でも、あなたなら――。あそこで生まれ育ったあなたになら、みんな、信頼してついて来てくれるんじゃないかと思う。ぼくたちに騙される懸念もなく、同じ《イースター》の人間として」
 何を言おうとしているのだろうか、この少女は。
 今更、草に何をさせようと――。
「俺は、《イースター》を捨てたんだ。あんなところで一生を終えるのは厭だった。もっと広い世界へ出て行きたかった。――そんな人間をあいつらが信用するものか」
 草は言った。
 だが、
「信用するよ。だって、あなたは《イースター》のために、ぼくを十六夜のトップから引きずり降ろそうとしたんだから」
「……で、俺にスパイをしろ、というのか? おまえの犬になって、あいつらを手なずけろ、と?」
「まさか」
 階は言い、
「あなたには、《イースター》の管理をしてもらいたい。あなたになら、みんな何でも話せると思う。ぼくやアンディには言えないことも、あなたにはきっと何でも言える。そして――みんなが安心できる」
「……」
「お母さまも、きっとそう思って、あなたの希望通りに地上に連れ出して、地上で生活させて、地上のことも、《イースター》のことも解る人間を育てようとしたんじゃないかと思う……」
 そうなのだろうか。
 あの人は――司は、そんなことを考えて、草を地上へ連れて行き、本来なら自分の子供の側につけたかった櫂をつけて、育ててくれたというのだろうか。
 そして――。
 もしかすると、櫂もそれを知っていて……。
「あの人は、母があの癌で死んで、父が死んで、初めて俺を抱きしめてくれた人だった……」
 草は言った。
 あの日のことを思い出すのは、久しぶりだった。
 突然の抱擁に驚いて、それでも心地良くて、振り払うことが出来なかった、あの日……。
「俺は……地上に出てみたかった。それでも、十六夜で暮らすのは厭だった……」
 だから司は、草を十六夜には連れて行かず、櫂と一緒に誰にも内緒で過ごさせていたのだ。
 口うるさいのが何人もいるから――それが司の口癖だった。
「小さい従妹に会いたくなったら、いつでも十六夜に会いに来ればいい、と言われた。きっと、彼女もすぐに、俺が従兄だと気付くはずだから、と――。だが、所詮は《イースター》を知らない地上の人間だ。俺たちとは違う」
 そう。階は、自分や司とは違う。
 自分が生まれた訳でもない場所は――暮らしたこともない場所は、ただの研究施設でしかあり得ないのだから。
 十六夜秀隆がそうであったように――。
「お母さまみたいに、すぐには判らなかったけど――。あの日は本当に怖かったし……」
 と、階は笑い、
「でも、もう判ったんだから、お互いにもっと知りたくなると思う」
「……知りたく?」
「だって、二人とも両親はいないし――。ああ、ぼくには『口うるさいの』が何人かいるけど、日本での数少ない肉親なんだから」
「……」
 ――口うるさいの……。
 司と同じ言葉を口にするその従妹に、草は、まるで司がそこにいるかのような錯覚を、覚えた。
「まだ名前、聞いてなかったよね?」
 階が訊いた。


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