427 / 443
XX外伝 ――継ぐべき者たち――
継ぐべき者たち 24
しおりを挟む「お母さまは《イースター》で生まれて、幼少期をそこで過ごした人だったから、他の《イースター》の人たちも、お母さまのことは受け入れてくれていた」
だからこそ、司が《イースター》のデータベースを書き換えることも許したのだ。他の誰に話すこともなく。
階の言葉は、まだ続いた。
「《イースター》の人たちは、僕たちが何を訊いても、結局、上辺だけのことしか教えてくれないと思う。あの癌のDNAワクチンを作り出したアンディにさえ、きっと心を開くことはしない……」
もちろんだ。
だが、彼らはただ、自分の身を守ろうとしているだけなのだ。
「でも、あなたなら――。あそこで生まれ育ったあなたになら、みんな、信頼してついて来てくれるんじゃないかと思う。ぼくたちに騙される懸念もなく、同じ《イースター》の人間として」
何を言おうとしているのだろうか、この少女は。
今更、草に何をさせようと――。
「俺は、《イースター》を捨てたんだ。あんなところで一生を終えるのは厭だった。もっと広い世界へ出て行きたかった。――そんな人間をあいつらが信用するものか」
草は言った。
だが、
「信用するよ。だって、あなたは《イースター》のために、ぼくを十六夜のトップから引きずり降ろそうとしたんだから」
「……で、俺にスパイをしろ、というのか? おまえの犬になって、あいつらを手なずけろ、と?」
「まさか」
階は言い、
「あなたには、《イースター》の管理をしてもらいたい。あなたになら、みんな何でも話せると思う。ぼくやアンディには言えないことも、あなたにはきっと何でも言える。そして――みんなが安心できる」
「……」
「お母さまも、きっとそう思って、あなたの希望通りに地上に連れ出して、地上で生活させて、地上のことも、《イースター》のことも解る人間を育てようとしたんじゃないかと思う……」
そうなのだろうか。
あの人は――司は、そんなことを考えて、草を地上へ連れて行き、本来なら自分の子供の側につけたかった櫂をつけて、育ててくれたというのだろうか。
そして――。
もしかすると、櫂もそれを知っていて……。
「あの人は、母があの癌で死んで、父が死んで、初めて俺を抱きしめてくれた人だった……」
草は言った。
あの日のことを思い出すのは、久しぶりだった。
突然の抱擁に驚いて、それでも心地良くて、振り払うことが出来なかった、あの日……。
「俺は……地上に出てみたかった。それでも、十六夜で暮らすのは厭だった……」
だから司は、草を十六夜には連れて行かず、櫂と一緒に誰にも内緒で過ごさせていたのだ。
口うるさいのが何人もいるから――それが司の口癖だった。
「小さい従妹に会いたくなったら、いつでも十六夜に会いに来ればいい、と言われた。きっと、彼女もすぐに、俺が従兄だと気付くはずだから、と――。だが、所詮は《イースター》を知らない地上の人間だ。俺たちとは違う」
そう。階は、自分や司とは違う。
自分が生まれた訳でもない場所は――暮らしたこともない場所は、ただの研究施設でしかあり得ないのだから。
十六夜秀隆がそうであったように――。
「お母さまみたいに、すぐには判らなかったけど――。あの日は本当に怖かったし……」
と、階は笑い、
「でも、もう判ったんだから、お互いにもっと知りたくなると思う」
「……知りたく?」
「だって、二人とも両親はいないし――。ああ、ぼくには『口うるさいの』が何人かいるけど、日本での数少ない肉親なんだから」
「……」
――口うるさいの……。
司と同じ言葉を口にするその従妹に、草は、まるで司がそこにいるかのような錯覚を、覚えた。
「まだ名前、聞いてなかったよね?」
階が訊いた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる