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XX外伝 ――継ぐべき者たち――
継ぐべき者たち 22
しおりを挟むあれ以来、階はオックスフォードの学寮で過ごすことはなく、個人指導がある日だけ桂が車で送り迎えをし、一人になることも全くなかった。
そして、大学は冬休みに入り……。
「しばらくは無理かな……」
草が警戒の強さに呟くと、
「隙があるとすれば、大晦日のカウントダウンだろ」
櫂が言った。
「無理だ。この状況で行くわけがない」
「なら、行ったらAプランだ。行かなけりゃ、一旦、ボストンに戻る」
不測の事態に備えて、プランは一つではあり得ない。
「行くとすれば例年通り待ち合わせか――いや、それはないか。送って行くか、迎えを呼ぶか……そんなところだろ」
そして、その櫂の言葉通り、大晦日にウォリック伯爵邸を訪れたのは、アルバート・レヴィ・フレイザー――イートンの頃から階と仲の良かった同級生である。毎年、カウントダウンに共に出掛けるメンバーの一人だ。
訪れたのは昼過ぎだったが、二人が屋敷を後にしたのは、夜の十時を前に見る時間のことであった。
「……どうやら、話しをしたいらしいな」
「え?」
櫂の言葉に問い返したが、
「階様がはぐれて一人になったら、連れて行け。――今度は撃つなよ。あの人混みの中じゃあ、必ず誰かに当たる」
応えは返らず、その言葉だけが返って来た。
「解ってる。――はぐれなかったら?」
「Bプランだ。――間違いなく、はぐれるだろうが」
そして、その言葉の通り、階はカウントダウンの中心へ向かおうとする人混みの中、共に出掛けたアールとはぐれ、一人になったのだった。
その階の背後に近付き、
「そのまま歩け」
草は言った。
「この人混みの中で発砲したら、そっちだって逃げられない」
あの時とは違う落ち着いた声で、階が言った。
「やはり、血は争えないな」
その落ち着きに虚を突かれながらも、草は不思議とそれが当たり前のような気がして、呟いた。
あの人の子供なら――司の子供なら、この間のように震えている姿ではなく、そういう落ち着き払った姿の方が納得できたのだ。
すると、階もその草の言葉に、自分や肉親のことを知っている人間だ、と確信したのか、
「あなたは――」
「振り返るな。こんなところで話しをする積りはない」
「……」
そして、ここではそれ以上の話しをすることもなく、草は階を促して、安いB&Bの一室へと足を入れた。
かなり前から計画していたために、この日に幾つか宿を取っておくことも、容易いことだったのだ。もちろん、一箇所ではなく、数か所の宿を取っておくのは、場所を特定されないためでもあるし、プランが代わっても対応できるように、という櫂のアドバイスのためだった。
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