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XX外伝 ――継ぐべき者たち――

継ぐべき者たち 11

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「君の父親は、十六夜柊――そうだろう?」
 長く抱きしめられたその後で、司の口から、あの日以来の禁句が紡ぎ出された。
「――」
 草は咄嗟に言葉に詰まったが、それでも、
「いいえ、違います! ぼくは――っ」
「もういいんだ……。何も心配することはない。柊の――兄の代わりに、これからはぼくが君を守る……」
 ――ぼくが君を守る……。
 ――この人が、ぼくを守ってくれる……。
 自分は一人なのだと――一人っきりになったのだと思っていたのに――。
 今まで抑えてきた何かが、一気に体中から溢れ出すように、涙と嗚咽が漏れだした。幼子のように声を張り上げ、ただ込み上げるままに泣き続けた。
 泣いて、泣いて――。
 そして、やっと泣きやんだ時、
「君が十六夜で暮らしたいのなら、それが適うようにすぐに戸籍を用意する」
 司が言った。
「……戸籍?」
「地上で生きるためには必要なものだ。いつ、どこのシステムで――地上の何処で生まれたのだ、という証明のようなものだ」
 違法な手段によって生まれたのではない、ということの証明なのだと、言葉を偽ることなく、司は言った。
 この《イースター》で生まれた者には戸籍がないから、司も、柊も、そうして十六夜のシステムを操作して、偽りの戸籍の元に、地上で暮らしているのだと……。
「これは他の者には内緒だ。口うるさいのが何人もいるから、ぼくがこんなことを君に教えたと判ったら、また小言を言われる」
 ――口うるさいの……。
 いつも一緒に訪れていた、あの金髪碧眼の少年や、切れ長の目をした長身の男のことだろうか。
 草はそんなことを考えながら、司に言われたことを頭の中で繰り返した。
 ――十六夜で暮らす……。
『もし、十六夜の全てを望まれるのなら……』
 ふと、あの日の伊吹の言葉が脳裏を過った。柊のスーツと共に手渡された、途中までの言葉だ。
 あの言葉は、どういう意味を持つものだったのだろうか。
『いえ……お忘れください。これは口にしてはならぬことです。柊様がそのように望まれたのですから……。あなたをお守りするために……』
 ――ぼくを守るために……。
 それは、口に出してはならない言葉……。
 それなら――。
「十六夜には……行きません」
 それが父、柊の望みであったのなら。
 草を十六夜の人間にしたくはない、と望んだのなら。
「そうか……。十六夜には、君の従妹に当たるぼくの子供がいる。まだ小さいが、会いたくなったら、いつでも来ればいい。きっと、彼女も君が従兄だと――肉親だとすぐに気がつく」
「……」
 彼女――女の子なのだ。
 やはり、この人のように短く髪を切って、少年のような姿をしているのだろうか。この《イースター》の女たちとは、全く違った装いを……。
 それなら、そんな人々のいる地上とは、一体どんな世界なのだろうか。
 この《イースター》の人たちは、そんな地上のことを知っているのだろうか。
 聞けば、教えてもらえるのだろうか。
「でも――っ」
 そう思うと、咄嗟に口から言葉が零れた。
「十六夜には行かないけど――。でも……」
「でも?」
「でも、地上に……住んでみたい……」
 草は言った。
「解った。すぐに手配をする」


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