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番外編 エリック編

エリック編 7

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「――もっと楽しいものかと思ってたのに」
 生まれた時から世話をしてくれている乳母のような存在、桂に着替えを任せながら、階はついつい愚痴を零した。
「一番、愚痴りたいのは、アンドルゥ様ですよ、きっと」
 それを言われると、何も言えない。
 保護者として、ずっと側についていたアンドルゥからすれば、始終、ハラハラ、イライラし通しの披露宴だったのだろうから。
 噂をすれば、で――アンドルゥが控室へと姿を見せ、ソファーにドサッと腰を下ろした。疲れたように、軽く指で瞼を押さえ、
「体調は?」
 と、階に訊いた。
「え、あ、うん、大丈夫」
「そうか――。無理はするな。疲れたのなら、このホテルに部屋を取ってやる。休んでから、帰ればいい」
「……」
 本当にいつも、階のことばかり、考えてくれる。
「アンディが、甘やかすから……っ」
 階は、礼装から着替え終えるのももどかしく、そのアンドルゥに抱きついた。
 本当に、いつもいつも、まだ小さな子供のように、何から何まで気遣ってくれる。
 甘えてはいけない、と思いながらも、甘やかされれば、それを当たり前に受け入れてしまう。
「君には、甘えられる親が早くにいないんだから、その分、僕に甘えて構わないんだ」
 髪を撫でるアンドルゥの様子を、桂が微笑ましく眺め、そこへ――、
「何だ、もう着替え終わったのか」
 ドアが開き、涼しげな切れ長の目をした、長身の男が姿を見せた。
 こちらも、階には保護者代わり、といっても過言ではない、香港の――いや、華僑組織の全てをまとめ上げる男、李菁――。
「――礼服が見たかったのなら、もう一度着ようか?」
 アンドルゥの胸から顔を上げ、階が訊くと、
「別に礼服はどうでもいいが、着替えるところが見たかった」
「……」
 こういう人間なのだ。――それでも、菁の方へと足を向け、
「ごめんね、菁。日本での手配を桂と菁に任せっきりにして」
 階は殊勝な言葉を口にした。
「我が子も同然の君の式だ。気にするな」
 優しいキスと抱擁が、階の体を包み込む。
 それからも、控室にはローレンスや、着替えを終えたエリックが訪れ、さながら身内だけの披露宴のように、幸福な祝福の時が過ぎて行った……。


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