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番外編 ローレンス編

ローレンス編 8

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『――こいつより頼りになりそうな奴は出来たのか?』
 ――アンドルゥより……。
 自分の部屋でベッドに入る時間、階は、昼間の菁の言葉を頭の中で繰り返した。
 アンドルゥと、他の誰かを比べたりすることなど、今まで一度もあり得なかった。アンドルゥは階にとって叔父であり、結婚対象にはなり得ないのだから――。そして、アンドルゥの代わりになるような人物など、いなかった、のだから。
『大好きだよ、アンディ……。ぼくがアンディと結婚できたらよかったのに』
 ――ぼくが……。
 そんな言葉をアンドルゥに囁いたのは、いつだっただろうか。――まだイートンの学生だった頃……。そう。あれはスウェーデンで発見された〈XX〉が死んだ時、自分はいつまで生きられるのか、とアンドルゥに問いかけ、アンドルゥを追い詰めてしまった時に、囁いた言葉だ。
『本当だよ。だから、そんな顔しないで、アンディ……』
 ――本当だよ……。
 アンドルゥと結婚できるものなら――小さい頃から、ずっと側にいてくれたアンドルゥなら――。〈XX〉である自分のことを、全て解って支えてくれるアンドルゥなら……。
「ダメだよね……」
 ――血が濃過ぎるんだから……。
 階は毛布の中に潜り込み、子供のように体を丸めた。すると、コンコン、とドアにノックが届き、
「もう寝たか?」
 と、菁の声が部屋に届いた。
 こんな時間に、菁の方から部屋を訪ねて来るなど、珍しい。
 階はベッドの中から顔を出し、
「起きてる」
 と、返事をして、すぐにドアへと足を向けた。
 ためらうことなくドアを開けると、
「相変わらず、無防備な奴だ」
「え?」
「いや――。久しぶりに会ったんだ。もう少し一緒にいても構わないだろう?」
 もうすっかり夜も更けているが、菁はそう言い、階の部屋へと足を入れた。
「また、アンディとケンカ?」
 ガウンを羽織り、階がカウチに腰かけると、菁もその隣に腰をおろし、
「気にするな。今に始まったことじゃない」
 と、天を仰ぐ。
「何か……それも一つの形だな、って思う」
「ん?」
「好きで一緒にいる関係だけじゃなく、ケンカをし続けながら一緒にいる関係――そんなのもあるんだと思う。――永遠のライバル、みたいな」
 仲が良い訳でもなく、こうして長年付き合っているのなら、それも、そういう運命で結ばれた形なのだと――そんな気がするのだ。
「なら、君とエリックは?」
「え?」
 菁の問いに、階は訳が解らず、問い返した。
「君とエリックは、どういう形なんだ?」
「どういう、って言われても……」
 自分ではよく解らない。
 菁とアンドルゥのことは、ふと、そんな風に思えただけで、全ての人のつながりに、そんな運命のようなものを感じるわけではないのだから。
「エリックのことは好きだよ。一緒にいると安心するし、『ああ、だから結婚するんだ』って思える」
「……。まあ、それも一つの形だろうな。私の場合は、『こいつ以外にはいない』と思ったが」
「――希のこと?」
 若くして死んだ、菁の結婚相手である。直接知っているわけではないが、以前に少し聞いたことがある。
「ああ。――人それぞれだ。それより――どこか具合が悪いのか、あいつは? 私以外の人間は知っているみたいだが」
 菁が訊いた。
 あいつ、とはもちろん、アンドルゥのことである。
「うん……」
 階はうなずき、年末の十六夜の屋敷で、アンドルゥが倒れたことから話して聞かせた。
 まだ手術を拒んでいることも、階が十六夜を継いで結婚しない限り、安心して静養出来ない、と言っていることも。
「……それで君は、急いで十六夜を継いで、エリックと結婚しようとしているのか?」
「そういう訳じゃ……。そりゃ、アンディには早く病気を治して欲しいけど、十六夜のことも、エリックとのことも、修士号マスターを取ったら、って決まってたし……」
「……」
「菁は、ぼくとエリックが結婚するのに反対なわけ?」
 さっきから、やたらとからんで来る菁に、階は訊いた。
 少し詰まるような間が空いて、
「――そりゃそうだろ。アンドルゥと張り合えるのは私くらいだと思っていたんだから――。あんな若造に持って行かれるとなると、腹も立つ」
「最初から圏外だよ」
 からくように舌を出し、階は菁に凭れかかった。
「可哀想だから、今日くらいは小さい頃みたいに、こうしていてあげる」
「……それはどうもありがとう」


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