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番外編 アール編
アール編 18
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ほとんどの時間を勉強に費やした冬休みも終わり、アールはオックスフォードの学寮に戻ると、オスカーの部屋を最初に訪ねた。
その思いがけないアールの来訪に、オスカーはもちろん戸惑っていたが、まだ荷物を解きかけの少し乱雑になった部屋にアールを通し、
「日本はどうでしたか? イギリスほど寒くはないのでしょう?」
と、世間話のように、切り出した。
「確かに、こんなに雪は降らなかった。――君は何をしていたんだ?」
アールが訊くと、オスカーは再び戸惑うように、ほんのわずか言葉を詰まらせた。
恐らく、アールの方から、オスカーのことを訊くのは、これが初めてのことだった。
「……興味があるのですか、ぼくが何をしていたかなんて?」
そう問い返されるのも、もっともであっただろう。彼は、これが政略結婚であることを承知しているのだから。
「決めておこう、オスカー。君の言う通り、はっきりと――。お互い、どこまで踏み込めて、どこまでのことが許されるのか……」
アールは真っ直ぐにオスカーを見つめて、そう言った。そして、
「ぼくはフェリーが好きだ。もう曖昧には出来ない」
もう、はぐらかしたままではいられないのだ。
刺されたりするのだろうか、やはり。
アンドルゥの冗談だと解ってはいても、アールはふと、そんなことを考えた。
だが、オスカーは、
「あなたは、ヘラヘラと笑っているしか脳のない人なのかと思っていました」
と、少し皮肉げに、鼻を鳴らした。
もちろん、ムッとしない訳ではなかったが、
「その通りだよ。誰とも上手くやって行きたかった。争い事が嫌いなんだ」
そういう性格なのだから、仕方がない。
「ぼくには考えられない。政略結婚の相手と仲良くしようなんて――」
だから彼は戸惑っていたのだ。アールの態度をどう受け取っていいのか解らずに……。愛情のかけらもないはずの相手に、優しい言葉と笑みで話しかけ、少しでも打ち解けようと努力をするアールの心が……。
「誰かを傷つけるのも、自分が傷つくのも厭だったんだ」
苦笑のように、アールは言った。
「……。あなたは医者に向いていますよ。少なくとも政治家にならなかったのは、正解です」
呆れているのか、馬鹿にしているのか、オスカーはそう言って、瞳を細めた。
「そうかな」
「ええ。――では、続きを決めてしまいましょう。ぼくは気が向いた時なら、あなたのセックスの相手をしても構いませんよ」
「……そこからなのか、やっぱり?」
階に抱くような愛情は持てないにしても、悪い人間ではない彼を、嫌って無視してしまうこともやはり出来ず――それでも、自分の気持ちだけははっきりと伝え、アールはもう面倒だとも思わずに、オスカーとの取り決めを進めて行った。
もちろん、これからも色々な問題は出て来るのかもしれないが……。それでも、その度に投げ出すことなく、向かい合っていけばいい。それが、彼に対する精一杯の責任の取り方、なのだから……。
完
※次回、ローレンス編をお送りします(これもやっぱり本編の続きです……)。
その思いがけないアールの来訪に、オスカーはもちろん戸惑っていたが、まだ荷物を解きかけの少し乱雑になった部屋にアールを通し、
「日本はどうでしたか? イギリスほど寒くはないのでしょう?」
と、世間話のように、切り出した。
「確かに、こんなに雪は降らなかった。――君は何をしていたんだ?」
アールが訊くと、オスカーは再び戸惑うように、ほんのわずか言葉を詰まらせた。
恐らく、アールの方から、オスカーのことを訊くのは、これが初めてのことだった。
「……興味があるのですか、ぼくが何をしていたかなんて?」
そう問い返されるのも、もっともであっただろう。彼は、これが政略結婚であることを承知しているのだから。
「決めておこう、オスカー。君の言う通り、はっきりと――。お互い、どこまで踏み込めて、どこまでのことが許されるのか……」
アールは真っ直ぐにオスカーを見つめて、そう言った。そして、
「ぼくはフェリーが好きだ。もう曖昧には出来ない」
もう、はぐらかしたままではいられないのだ。
刺されたりするのだろうか、やはり。
アンドルゥの冗談だと解ってはいても、アールはふと、そんなことを考えた。
だが、オスカーは、
「あなたは、ヘラヘラと笑っているしか脳のない人なのかと思っていました」
と、少し皮肉げに、鼻を鳴らした。
もちろん、ムッとしない訳ではなかったが、
「その通りだよ。誰とも上手くやって行きたかった。争い事が嫌いなんだ」
そういう性格なのだから、仕方がない。
「ぼくには考えられない。政略結婚の相手と仲良くしようなんて――」
だから彼は戸惑っていたのだ。アールの態度をどう受け取っていいのか解らずに……。愛情のかけらもないはずの相手に、優しい言葉と笑みで話しかけ、少しでも打ち解けようと努力をするアールの心が……。
「誰かを傷つけるのも、自分が傷つくのも厭だったんだ」
苦笑のように、アールは言った。
「……。あなたは医者に向いていますよ。少なくとも政治家にならなかったのは、正解です」
呆れているのか、馬鹿にしているのか、オスカーはそう言って、瞳を細めた。
「そうかな」
「ええ。――では、続きを決めてしまいましょう。ぼくは気が向いた時なら、あなたのセックスの相手をしても構いませんよ」
「……そこからなのか、やっぱり?」
階に抱くような愛情は持てないにしても、悪い人間ではない彼を、嫌って無視してしまうこともやはり出来ず――それでも、自分の気持ちだけははっきりと伝え、アールはもう面倒だとも思わずに、オスカーとの取り決めを進めて行った。
もちろん、これからも色々な問題は出て来るのかもしれないが……。それでも、その度に投げ出すことなく、向かい合っていけばいい。それが、彼に対する精一杯の責任の取り方、なのだから……。
完
※次回、ローレンス編をお送りします(これもやっぱり本編の続きです……)。
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