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番外編 プレップスクール編

プレップスクール 6

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 一、二時間も乗ると、階も親譲りの勘の良さと運動神経で馬に慣れ、休憩を挟んで、今度はエリックと二人で、その美しいサラブレッドに乗ることにした。もちろん、最初は馬の横でアレックスが手綱を引き、ゆっくりと丘へと踏み出した。
 馬が足を運ぶ度に、薄茶色の髪が揺れて、エリックの元にいい匂いを運んで来る。
 ――いつか、この従兄弟を抱きしめたり、キスしたりする日が来るのだろうか。
 そんな妄想を膨らませていると、馬が足を止め、丘の上から司とアンドルゥを見下ろす場所まで登って来ていた。
 下の馬場では、司が見事な手綱さばきで、軽やかに馬を操っている。
 それを見て、階が大声で呼び――かけたが、馬を驚かせてはいけないことに気付いたのか、口を噤んで、エリックを見上げた。
 司の乗馬を自慢したいのだ。それはエリックにもすぐに判った。
「すごいな」
 そう言うと、階が嬉しそうに、笑顔を見せた。
 きっと、エリックもその笑顔が見たくて、そう言ったのだ。
「エリック、キツネがいる!」
 反対側の斜面の切り株の陰に、冬毛に覆われたキツネの姿が覘くのを見て、階が小声で指をさした。恐らく、狩猟ハンティングの犬から逃れて、こっちの丘へとやって来たのだろう。
「本当だ!」
 エリックも、こんな田舎に来ることは余りなく、キツネを間近で見るのは初めてだった。
「アレックス、おろして!」
 階が言うのを聞き、
「ぼくも!」
 もっと近くに行って見たかったのだ。
 二人は、アレックスに馬から降ろしてもらうと、静かにキツネの方へと歩き出した。手は、知らない間につないでいた。
「すぐに逃げるって」
 アレックスが言うと、キツネはそれを聞いていたように、二人に気づいて翻った。
 咄嗟に二人は駆け出していた。
 逃げたキツネを追いかけて、どちらからともなく、丘の下へと駆け下りる。
「おい! 斜面を走るな!」
 アレックスの言葉を耳に留め、
「階! アレックスがダメだって――!」
 繋ぐ手を強く握って、エリックは言った。が――。
「だって、キツネが――っ」
 階はキツネに夢中だった。
 その声を耳に留め、反対側の馬場ではアンドルゥが、丘の上へと踏み出していた。
 ちょうど、斜面で加速がつき過ぎて、階の足がついて行かず、転んでしまうのと同時だった。
「うわあ――っ!」
 手をつないでいたエリックも、同じように足を取られ、勢いよく丘の上から転がり落ちた。
 それからどうなったのかは、解らない。宙を舞っているような、何度も叩きつけられるような――気付いた時には階を抱え、さっきキツネが隠れていた、切り株に強かに肩をぶつけ、そこで転がり落ちるのを止められていた。
 一瞬のことで――いや、転がり落ちている時は、永遠のように長かったが、実際には、あっという間の出来事だった。
「大丈夫か! フェリックス、エリック!」
 追いついて来たアレックスが、まずエリックが抱える階の様子を確認し、何が起こったのか解らないように、ぽかん、とする階を抱き起こした。そして、階が泣きだすと、
「良かった。泣けるのなら、大丈夫だ」
 と、大したケガがないのを見て、今度はエリックへと視線を移した。
「ごめん、アレックス……」
 エリックが言うと、
「馬鹿! 動くな――っ」
 アレックスが、目を瞠って、言葉を放った。
 ぶつけた肩が痛かったが、まだ何が起こっていたのかは、エリックには解らなかった。
 そうする内にアンドルゥが姿を見せ、司も馬で駆けつけた。
「どうすればいい、アンドルゥ……?」
 アレックスの蒼白な面が、アンドルゥの視線を見つめていた。
「……枝を切るものを」
 アンドルゥの視線の先には、エリックの肩の下あたりから突き出す、枝の姿があった。切り株に体ごとぶつかった時に、突き出していた枝に、背中から胸まで貫かれたのだ。
 ここで枝から体を抜くことは出来ない。傷が広がることも考えられるし、出血も酷くなる。何より、エリックがその痛みに、ショック状態に陥ってしまうかも知れない。
 アレックスが、腕に抱く階を司に渡し、その代わりに、司の乗って来た馬に跨り、厩舎の方へと急いで駆ける。
 階もただごとではないその様子に、いつの間にか泣きやんでいた。


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