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XX Ⅲ

XX Ⅲ-37

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「やってくれたな、ラリー」
 電話の向こうの友人へと、エリックは憮然とした口調で、言葉を投げた。
「おまえがアドミラル.ソアーの力を使うからだ。こっちも、祖父から正式に申し込んでもらうしかないだろう」
 口調は、どこか楽しげだった。それは、ローレンスだけでなく、エリックも――。
「お陰で、返事は先になった」
「それはこちらも同じことだ。ロード・ウォリックが、どちらを選ぶか――。いや、ロード・ウォリックには選べないだろう」
「まあ、そうだろうな。どちらを蹴っても、得にはならない。――だが、アンドルゥが決める」
 エリックは言った。
 こうして競うことさえ、ライバルとして、楽しめるのだ。
「フェリックスが決めるとは思わないのか?」
「あいつが決めるのなら、それはそれで構わない。できれば、そんな可哀そうなことはさせたくなかったが……」
「自分で決められない方が、可哀そうだろう?」
「おまえは……あいつを知らない。口よりも先に手が出る奴だ。おまえの愛し方は、階を傷つける」
「……どういうことだ?」
「その内、解る」
 ――そう。その内に。
 プレップ・スクールの頃から、ずっと階を見守って来たのだ。不器用で、甘やかされて育ってきた、その従兄妹を――。階はアンドルゥから離れては生きていけない。そして、アンドルゥも階を手放さない。なら、アンドルゥと共にいる階を受け入れるしか、方法はない。それは、エリックには出来ても、ローレンスには出来ないだろう。
 あの二人には、互いが唯一の存在なのだ……。




 アンドルゥがそう言うであろうことは、解っていた。そうしなくてはならない理由も知っている。どんなに胸が痛んでも、言わなくてはならない言葉があることも……。
 それでも――。
「……ぼくがローレンスを好きなことを、知ってるくせに」
 最後の抵抗のように、階は言った。
「そうだな。――それでも、エリックは待っていてくれる。今、君がローレンスを愛していても――。あいつの――エリックの優しさに甘えればいい」
「できない! そんなことできない! エリックを待たせておいて、ラリーと一緒にいるなんて……できない……」
 そんなことが出来るくらいなら、迷うこともなく、苦しむこともない。
 辛くて、胸が張り裂けてしまいそうだった。堪えていても、涙が零れる。
「どうして……。どうして、おじいさまと、アンディが決めるの……? ぼくのことなのに……」
「それは……きっと、結婚は家のために、恋愛は自分のために、という図式が確立しているからだ。おじいさまでさえ、サー.アーサー・ソアーとの政略結婚を受け入れるしかなかった。婚姻関係を結んで、子供を申請するだけの関係なのだから、感情は関係ない。愛しい者がいれば、それとは別に、勝手に付き合えばいい」
 もちろん、そのせいで、ソアー家との間に、確執が出来ることになってしまったのだが。
「そんなの、解らない……。ラリーも、エリックも大切なのに……」
「一つを選ぶということは、それ以外を捨てると言うことだ。どちらにもいい顔は出来ないだろう?」
「――」
「……悪かった」
 アンドルゥは言い、
「もう少し考えよう。時間はもらってある」
 どうしても、階に辛い思いをさせられないのだ。だから、司を死なせてしまったのだろうか。十六夜秀隆の言うように、自分の甘さが、助けられるはずの命を、助けられなくしているのだろうか。
 アンドルゥは、あの日の十六夜秀隆との会話を思い出しながら、唇を噛んだ。
 司を死なせてしまった事実を突き付けられ、すがるように階の眠る部屋へと救いを求めに行った、あの日……。階は優しく抱きしめてくれ、暖かい毛布で包んでくれた。――そう。きっと、アンドルゥの方が、階を手放したくないのだ。エリックと結婚するのなら、階をずっと側に置いておける。知らない人間に渡すよりも、ずっと安心して見ていられる。だから、エリックを……。
「……おじいさまに話して来よう。同じ学校なのだから、今は当人同士に任せると――。大学を卒業したら、その時はどちらかと正式に話を進めると」
 アンドルゥは言った。
「本当に……?」
「僕が君に勝てたことなんか、今まで一度もないだろう?」
 どうしても、十六夜秀隆のようには、非情になれない。もしかすると彼も、非情になるために、失踪という形を取って、司の側を離れたのだろうか……。


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