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XX Ⅲ
XX Ⅲ-34
しおりを挟むこの《イースター》には、絢爛な中国様式の建物が、あった。それは宮殿とも呼べる荘厳さで、中心となる宮殿から複道(二階建ての通路)や閣道(重層の回廊)によって、また別の宮殿へと続いている。
〈XX〉たちの纏う衣服もまた同じで、清代の装束のように、袖広で、裾の長い優美なものとなっている。
ここには、どれくらいの〈XX〉たちがいるのだろうか。
アンドルゥは、白衣姿の男に案内される中、やはり御簾の向こうに見え隠れする、〈XX〉たちの姿を気にしていた。
「ここは一体、いつからあるんだ?」
前を行く白衣の男に、アンドルゥは厳しく訊いた。
以前、菁の銃で傷を負った十六夜秀隆が、応急処置の後、運び出される後を付けて場所を突き止めた、もう一つの《イースター》の中である。
「それは、十六夜翁からお聞きください。たとえあなたが十六夜の後継者たる階様の後見人であろうと、この《イースター》は、あなたのものではありません。私があなたを案内するのも、十六夜翁に言われているからです」
そう言って、白衣の男が開いた扉の向こうには、黒壇のテーブルを置く、花窓のついた、絢爛な中国装飾の一室があった。
その黒壇のテーブルにつき、茉莉花茶を口元に運んでいるのは――。
「お久しぶりです、十六夜翁。――もう起きられてもいいのですか?」
アンドルゥは訊いた。
「ちゃんと臓器は外して撃ってくれたようだ。心配には及ばん。――さすがに44マグナムでは堪えたが、な」
皮肉げな言葉が返って来る。
「次は外しません。もうこの《イースター》の場所も判り、あなたを泳がせる必要もないのですから」
「おかしなことを言う。君にとって、ここは完全アウェイだ。今、敵地で一人なのは君の方ではないのかね、アンドルゥ? ここで、君の言うことを聞く者は、一人もおらん」
その言葉は、確かに正しいものであっただろう。さっきの白衣の男を始め、ここには十六夜秀隆の息のかかった者しかいないのだ。それなら――。
「もちろん、諸共に死ぬ覚悟です。あなたも、僕も、この《イースター》も、全て共に」
アンドルゥの言葉をはったりだと言うには、その眼差しは不敵すぎた。
しかし、拭いきれないものもある。
「階を残して死ぬことが出来るのかね、君に?」
何よりも大切な、その存在を――。
「あなたが司にそうしたように、僕も階には道標を残してきました。これからのことは、全てそこに記してあります」
「なるほど。――では、話を始めよう。お互い、荒っぽいことよりは、頭で解決する方が得意だ」
「階は……頭で考えるより先に、手を出しますよ。あなたに似ていなくて良かった」
微笑むようにして、アンドルゥは言った。
司も、じっと考えるより、行動するほうが性に合っていたのだから、きっと階は、司のその遺伝子を継いだのだろう。
「失いたくはないのだろう、その階を?」
「もちろん。ですから今日、こうして、ここまで来たのです……」
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