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XX Ⅲ
XX Ⅲ-31
しおりを挟む気がつくと、いつも、探している。
食堂で、図書室で、グラウンドで……それでも、他の学寮の第六学年級の生徒の中に、あの目立つプラチナ・ブロンドは見当たらない。
冬休み明けの、イートン――。
今年は大寒波で、ずっと雪が降ったりやんだりを、繰り返している。
朝のお祈りの後、礼拝堂を出ると、冷たい風が雪と共に吹き抜けた。思わず首をすぼめて、身を縮める。
その時――。
「あれ、ローレンス・シアーズじゃないのか?」
と、たった今、止まった車から降り立つ生徒を見て、誰かが言った。
見れば、雪に紛れてしまいそうな銀髪が、風に煩わしそうに揺れている。
「何で今頃、来てるんだ?」
もう学期は始まっているのだ。
「あいつ、海外に行ってたから、この大寒波で空港が閉鎖されて、帰って来れなかったんだってさ」
「ああ、そういや、テレビでやってたっけ」
そんな話を聞きながら、階は走り出したい衝動を抑えながら、その場でじっと見つめていた。
目が合った――ような気がしたのだが、ローレンスはそのまま学寮に入ってしまった。
「フェリー、早く行こう。授業に遅れる」
アールがいつものように、世話を焼いてくれる。
「うん……」
階も足を踏み出した。が――、
「ごめん、アール。ぼく、彼に用が――」
階は、教室とは反対側の、ローレンスの学寮へと駆け出した。
衝動だった。
皆が授業へと向かう中、学寮にいるのは、きっと、今来たばかりのローレンスだけである。そう思うと、その衝動のままに駆け出していた。
アールの視線を、背中に感じる。それでも、足は止まらなかった。
監督生室の前に着く頃には、いい加減、息が切れていた。
ノックをすると、戸惑うような沈黙の後、ドアが開いた。きっと、授業の始まるこの時間に、誰かが来るなど思ってもいなかったのだろう。
ローレンスの灰青色の瞳が、ドアの前の階を見下ろした。そして、
「何か用なのか?」
と、冷たく言った。
何も言えなくなる言葉だった。
「そういう訳じゃ……」
「授業が始まるだろう? もう九時になる」
何を期待していた、というのだろうか。初恋のようだ、と――そんな言葉を聞かされて、有頂天になって……。
黙っていると、ローレンスに腕をつかまれ、強引に部屋に引き込まれた。
「ローレンス――っ」
「エリックに飽きて、今度はこっちに来たのか?」
後ろの壁に押し付けられ、きつい眼差しが突き刺さった。
「何を――?」
「やりたいのなら、いつでも相手になってやるさ」
乱暴に唇を塞がれて、階は意味が解らず、戸惑った。
いつも強引にキスをされて、知らない内に引き込まれても、これほど乱暴に扱われたことは、今までなかった。明らかに、今日のローレンスは様子が違った。
「やめ――っ!」
力に任せて、そのままベッドに押し倒される。
もう、訳が解らなかった。
「どうして……こんなこと?」
「どうして? ハッ! こっちが訊きたいくらいだ」
もう、まともに話も出来ない。
ローレンスの手が、襟元にかかった。ボタンを引きちぎるようにして胸を開き、白い肌を露わにする。
「やめ……て……」
唇が、首筋から胸に落ち、形の良い手が、下肢に伸びる。
「いやだ……ローレンス……」
階の言葉は、届かなかった。
ローレンスの手が、組み敷く階の体を這い、下肢の狭間に入り込む。
階は、ギュっと目を瞑った。
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