《 XX 》 ――性染色体XXの女が絶滅した世界で、唯一の女…― 【本編完結】※人物相関図を追加しました

XX Ⅲ

XX Ⅲ－３０

　クリスマス、という一大イベントが終了すると、ロンドンは一気に静かになる。クリスマスは何よりも盛大で、何よりも待つ楽しみのある行事なのだ。
　ヨーロッパの他の国々もそうであるように、クリスマスは大抵、家族で過ごしたり、セント・ポール大聖堂のクリスマス・キャロルのイベントに行ったり……と、賑やかなだけに、それが終わった後の静けさは、物悲しい。
　エリックも家に帰ってしまい――結局、話は出来ないままで……。エリックは夜中の出来事も覚えていないかのように、いつもと同じように振舞っていた。――いや、あれだけお酒が入っていたのだから、本当に覚えていないのかも知れない。少なくとも階は、そう思っていた。
　この後の休みの予定は、といえば、ロンドン・アイでのカウントダウンに、アールや他の何人かの学友と待ち合わせる約束をしているが、それまでは――。
「勉強をすればいいだろう？」
　と、アンドルゥは言うが、
「退屈してる方がいい……」
　と、思ってしまうのだ。
　そして、アンドルゥは、クリスマスが終わると、すぐに仕事に戻ってしまった。菁はいてくれるらしいが、それでも忙しそうで、いつも携帯端末を離さない。
「桂……」
「何ですか？」
　やっと話相手を見つけて話をするが、肝心のことは中々、言い出せない。
「桂は……」
「私は？」
　ふて腐れる様にベッドに突っ伏し、
「――おかあさまが、どうしてアンディも菁も選ばなかったのか、知ってる？」
　と、話しをすり替えて、問いかける。
「さあ、私には――。あなたも決められないのですか？」
　その言葉に、ガバッと体を起こし、
「何で――っ、知ってるの……？」
　と、階は訊いた。
「あなたより長く生きていますから――。カマをかけてみただけです」
　何食わぬ顔で、桂は言った。
　階は少し、ムッとしたが、
「……アンディも気付いてる？」
「決めるのは、アンドルゥ様ではなく、あなたでしょう？」
「……」
「イギリスには、こんなことわざがあるのですよ……」

　――　一日幸せになりたければ、髪を切りなさい。

　――　一週間幸せになりたければ、馬を飼いなさい。

　――　一月幸せになりたければ、結婚しなさい。

　――　一年幸せになりたければ、家を買いなさい。

「じゃあ、一年以上は幸せになれないじゃないか」
「いいえ。ちゃんと一生幸せになれる方法もあります」

　――　一生幸せになりたければ、自分に素直になりなさい。

「自分に素直に……」
　階はその言葉を繰り返した。
「誰が好きなのですか、あなたは？」
　桂が訊いた。
　――誰が……。
　一番に頭に思い浮かぶ、その顔は……。
「……ローレンス・シアーズ」
「では、迷う必要など、ないではありませんか」
「うん……」