246 / 443
XX Ⅲ
XX Ⅲ-6
しおりを挟む夕方になると、菁も香港からイギリスに着き、久しぶりにウォリック伯爵邸は賑やかになった。香港、ニューヨークの麻薬市場を取り仕切るマフィアのドンといえ、階にはいつも甘いのである。
「相変わらず、ペッタンコの胸だなぁ。――早く大きくなって、私と結婚してくれ」
キスをしながら階を抱きしめ、菁は、その感触に、からかいを零した。
「ぼくは胸なんかいらないし、ずっとこのままでいい。そんなのが好きなら、トルソーと結婚すればいいんだ。ぼくだって選ぶ権利があるし」
階はプイ、と横を向いた。
「君が選ぶのなら、私はそれで納得するさ。司は――君のお母さまは、結局、どちらも選ばなかった」
その言葉に、部屋にいる全て――階を除く三人が、あの頃の回想に心を馳せた。
「どちらも、って、誰? お父さま――じゃないよね」
階が訊くと、
「何だ、知らなかったのか? アンドルゥと私は、ずっと司にプロポーズしていたんだよ」
「菁――。余計なこと言うなよ」
憮然とした顔で、アンドルゥが言った。
「そうなの、アンディ?」
階が真偽を問うように、首を傾げる。
「司にもう少し時間があったら……解らないさ」
その言葉に、階は菁へと視線を向けた。
「いや、どっちにしろ、クリストファーの勝ち逃げだ。――なあ、階。君のお父さまだけが司と結婚出来て、君を残せた。本当に羨ましい奴だよ、あいつは」
言いながら、菁は再び階を腕に抱いた。
「そうなんだ……。もっと聞きたいな。お父さまと、お母さまの話……」
「いくらでも。――ただし、寝物語だ。添い寝でなら、話してやろう」
「絶対、イヤだ!」
この年頃の心は頑なである。まあ、もう子供と言うほど幼くもないのだから、当然と言えば当然なのだが。
「でも……お父さまのことは判らないけど、アンディと菁じゃ、全然タイプが違うよね。年も違うし、考え方も違う――」
おかえりのキス一つとっても、二人は違う。アンディは肩に軽く手を置いて、髪に口づけるだけなのに、菁は大きな胸に抱いて、頬ずりするように口づける。ちなみに、桂はキスもしないし、触れもしない。
それを聞くと、
「それは性格の違いじゃなくて、立場の違いだ」
「立場?」
「ああ、アンドルゥは君の叔父で、結婚相手にはなり得ないから、父親のような立場だし、桂は赤ん坊のころから君の世話をしてきた乳母のような立場だし、唯一、私だけが君にとって、男になり得る立場な訳だ。――君だって、好きな奴にするキスと、私たちにするキスは違うだろう?」
菁が言うと、階は目に見えて、赤くなった。肌が抜けるように白いだけに、その変化がよく目立つのだ。
そして、その変化に一番に反応したのは、アンドルゥだった。
「まさか……。そんなことしてないだろうな、階? 駄目だ! 絶対、駄目だからな――っ」
「アンドルゥ様!」
桂が咄嗟に言葉を止めたが、その時にはもう、遅かった。階はきつく唇を結び、部屋の外へと飛び出していた。
「あーあ、どうするんだ? 微妙な年頃なのに、頭ごなしに」
天を仰ぐように、菁がアンドルゥの失態に皮肉を贈る。
「……。階は、まだ子供で――」
「おまえが司にプロポーズしたのは、十五、六じゃなかったっけ?」
「……」
「――で、自分だけは良くて、階は駄目か」
「階は〈XX〉だ……。学生の分際で、階を守れる奴なんかいる訳がない」
十六歳のアンドルゥでさえ、もどかしい思いを抱えながら、司を守れるようになるまで待ったのだ。――いや、待っていて欲しい、と司に頼んだ。
「……君が追いかけてくれないか、桂」
アンドルゥは、ドアを気にする桂に言った。
だが――。
「誰が追いかけても、きっと同じです……」
そっとしておいた方がいいのだ、今は。
「私は、親の反対を押し切って、希と結婚した。君も、司のことでは結局、あの頑固なロード・ウォリックさえ説得して、許しをもらった。――そうだっただろう? この世のどこに、子供に勝てる親がいるというんだ?」
「……」
「好きにさせてやれ、とは言わないが、話くらいは聞いてやれ」
この世のどこに、子供に勝てる親がいると……。
「そうだな……」
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる