186 / 443
番外編 アンドルゥ編
アンドルゥ編 10
しおりを挟む十五歳になった春――。
グレヴィル家での次男に当たるグレアムが、トルソーとの結婚を反対されて、父たるウォリック伯に勘当され、家を出た――その話も含めて、アンドルゥはイートンからロンドンの屋敷へと、強引に呼び戻されていた。
「クリスが家を出た訳でもないのに、どうしてぼくが戻らなくてはならないのですか?」
少しの不満と、時間の惜しさに、つい、そんな言葉を吐いてしまった。
「どうしてだと? おまえは何も解っていないのか? この家には、もうおまえとクリストファーしかおらぬのだぞ」
ウォリック伯の言葉も、多分に怒りを含んでいた。
「クリスがいれば充分ではありませんか。ぼくのことは今まで通り、放っておいてくだされば――」
パシーン――と激しい平手が飛んだ。
「く――!」
「着替えて来い。出かける」
ウォリック伯はそう言って、アンドルゥの前から翻った。
打たれた頬に唇を結び、アンドルゥは、逆らうことが出来ない父の威厳に、黙って部屋へと着替えに戻った。
クリスは抜けられない仕事があるとかで、まだ屋敷には戻っていない。
だが、きっと仕事ではなく、グレアムの元へ、気遣いに行っているのだろう。そういう優しい人なのだ、クリスは。そして、伯爵家の長子として、いつも損な役割を押し付けられる。アンドルゥでさえ、クリスがいるから、と、面倒なことから逃げ回っているというのに――。
着替えを済ませて部屋を出ると、
「表に車を回しております」
慇懃無礼な執事が言った。
どこに行くのかは知らないが、アンドルゥはウォリック伯と共に車に乗り込み、戻ったばかりの屋敷を後にした。
クリスの所に行く訳でも、ましてやグレアムの所へ行く訳でもないだろうが、それを聞くことも出来ないままに、二人は無言でシートに座っていた。
そして、車が止まったのは、ロンドン市内の病院の前であった。
「どなたかの見舞いですか?」
アンドルゥは、あれから始めて口を開いた。
「いや……。来なさい」
それだけを言って、ロード・ウォリックは院内を見知った場所のように足を進めた。
その姿を見るだけで、アンドルゥには、すでに察しがついていた。ウォリック伯の曖昧な答えも、その確信を深めるものであった。
グレアムが家を出た途端、とは……。ある意味、正直な人間なのだ、ロード・ウォリックも。
診察室では、すでに医師が待っていた。今は外来診療時間外で、順番を待つ人影もない。恐らく、ロード・ウォリックが強引に、時間外診療を頼んだのだろう。
「息子の検査を」
それだけの言葉で、医師には通じた。
「では、これに精液の採取を――」
そう言って医師は容器を差し出し、
「カーテンの向こうに行けばいい」
と、多感な年頃の子どもを気遣うように、後ろを示した。
屈辱だった。
アンドルゥは、きつい眼差しで父親を見据え、
「嫌です。ぼくは検査などしません」
「私は外にいる」
ウォリック伯はそう言うと、アンドルゥの言葉など聞こえていないように、ドアの方へと翻った。
「お父様――!」
「君が自分で出来ないのなら、私たちが採ることになる」
腕をつかんで、医師が言った。
「帰ります。手を放してください」
「これは検査だ。検体が採取できるまで帰れない」
その言葉に、看護師が二人掛かりで、アンドルゥを診察台の上に抑えつけた。
「やめ――!」
大人の力には、敵わなかった。ズボンを開かれ、医師の手で刺激を与えられることに、アンドルゥは唇を噛みしめた。屈辱と悔しさで、心が張り裂けてしまいそうだった。
「堪えていては、検査にならない」
医師の手が、さらに強く、前後に動いた。
「頑固だな。――電気プラグを。前立腺を刺激して、射精を促す」
医師にとっては、仕事なのだ。
「もう、やめ……っ!」
後ろからプラグが挿入され、電気を流すことによって、前立腺が刺激される。
「く……!」
普通の体に生まれて来たのなら、こんな思いをすることもなかったというのに……。
やっと採取出来た精液を見て、
「少ない上に、透明で、水のようにサラサラだ。精子があるかどうかは難しいな」
医師は、ぽつり、と呟いた……。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる