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番外編 司編
司編 22
しおりを挟むアレックスが部屋に入ると、階が、思いがけない来訪に、嬉しそうに飛んできた。昼間、プールで打ち解けてから、すっかりこの夏の友人になっているのだ。どうやら、家ではいつも家庭教師で、同じ年頃の友だちもなく、こうして年上の人間とばかり、付き合っているらしい。
そんな訳で、階が起きている間は、肝心の話しをすることも出来ず、
「階様、そろそろお風呂に入ってお休みしましょう」
と、桂が言って、名残惜しげにバスルームへ向かうまで、そうしていた。
それぞれがお休みのキスを階に贈り、やっと部屋には三人になった。
「僕と司は部屋に戻るけど、来るのか、アレックス?」
来るな、と言うように、アンドルゥが言った。
二人は同じ部屋なのだ。
「ああ。少し飲みたい。一人で飲んでも仕方がないし、な」
そして、アンドルゥと司が使う寝室に移り、ウイスキーをロックにして、三人はそれぞれソファに掛けた。
「アレックス――、確かに僕は、君に頼みごとをした。だけど、それはそれだ。司とのことに立ち入って欲しくはない」
警戒心をあらわに、アンドルゥが言った。
きっと、これからもその頑なさは変わらないのだろう。
アレックスは、
「ああ、もう何も言わない」
と、あっさりと言い、
「ただ……久しぶりに会うと、君があまりに変わっていたから、戸惑った。幸せになって欲しいと思ったんだ。――兄として」
「……」
「変だな。今まで、君のことが苦手でしかなかったのに」
本当に変だ、とアレックスは思った。今まで気に掛けたことさえなかった弟だというのに――。アンドルゥの人間らしい一面を見たせいで、そんな風に思ったのかも知れない。
彼が余りにも弱々しい、普通の人間であったと知って……。
その夜は三人とも、そんな優しい気分のままに、何だか気持ち良く飲んでいて、気付いた時には、すでに朝を迎えていた。
時計は九時を回っている。
「……嘘だろ。また、朝からロード・ウォリックに睨まれる」
すでに朝食の時間を過ぎているのだ。昨日のプールでのことも含めて、悪印象が増したことは間違いない。
「おい、アンドルゥ――」
と、二人を起こそうとして、ベッドで司を抱きしめるようにして眠る、アンドルゥの姿が目に付いた。
「……まるで、今しか見えない十代の恋人同士だな」
本当に、この二人は何を考えているのだろうか。何かに急かされるように愛し合い、先のない恋人たちのように求めあう。それでも、結婚はしない、という。誰に反対されているわけでもなく、何の障害があるわけでもないというのに……。
アレックスは、黙って部屋を後にした。
「仕方ない。一人で怒られるか……」
どうせ、あのことも断らなくてはならないのだから……。
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