上 下
172 / 443
番外編 司編

司編 22

しおりを挟む


 アレックスが部屋に入ると、階が、思いがけない来訪に、嬉しそうに飛んできた。昼間、プールで打ち解けてから、すっかりこの夏の友人になっているのだ。どうやら、家ではいつも家庭教師で、同じ年頃の友だちもなく、こうして年上の人間とばかり、付き合っているらしい。
 そんな訳で、階が起きている間は、肝心の話しをすることも出来ず、
「階様、そろそろお風呂に入ってお休みしましょう」
 と、桂が言って、名残惜しげにバスルームへ向かうまで、そうしていた。
 それぞれがお休みのキスを階に贈り、やっと部屋には三人になった。
「僕と司は部屋に戻るけど、来るのか、アレックス?」
 来るな、と言うように、アンドルゥが言った。
 二人は同じ部屋なのだ。
「ああ。少し飲みたい。一人で飲んでも仕方がないし、な」
 そして、アンドルゥと司が使う寝室に移り、ウイスキーをロックにして、三人はそれぞれソファに掛けた。
「アレックス――、確かに僕は、君に頼みごとをした。だけど、それはそれだ。司とのことに立ち入って欲しくはない」
 警戒心をあらわに、アンドルゥが言った。
 きっと、これからもその頑なさは変わらないのだろう。
 アレックスは、
「ああ、もう何も言わない」
 と、あっさりと言い、
「ただ……久しぶりに会うと、君があまりに変わっていたから、戸惑った。幸せになって欲しいと思ったんだ。――兄として」
「……」
「変だな。今まで、君のことが苦手でしかなかったのに」
 本当に変だ、とアレックスは思った。今まで気に掛けたことさえなかった弟だというのに――。アンドルゥの人間らしい一面を見たせいで、そんな風に思ったのかも知れない。
 彼が余りにも弱々しい、普通の人間であったと知って……。
 その夜は三人とも、そんな優しい気分のままに、何だか気持ち良く飲んでいて、気付いた時には、すでに朝を迎えていた。
 時計は九時を回っている。
「……嘘だろ。また、朝からロード・ウォリックに睨まれる」
 すでに朝食の時間を過ぎているのだ。昨日のプールでのことも含めて、悪印象が増したことは間違いない。
「おい、アンドルゥ――」
 と、二人を起こそうとして、ベッドで司を抱きしめるようにして眠る、アンドルゥの姿が目に付いた。
「……まるで、今しか見えない十代の恋人同士だな」
 本当に、この二人は何を考えているのだろうか。何かに急かされるように愛し合い、先のない恋人たちのように求めあう。それでも、結婚はしない、という。誰に反対されているわけでもなく、何の障害があるわけでもないというのに……。
 アレックスは、黙って部屋を後にした。
「仕方ない。一人で怒られるか……」
 どうせ、あのことも断らなくてはならないのだから……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄された金髪碧眼の醜女は他国の王子に溺愛される〜平安、おかめ顔、美醜逆転って何ですか!?〜

佐倉えび
恋愛
下膨れの顔立ち、茶髪と茶目が至高という国で、子爵令嬢のレナは金髪碧眼の顎の尖った小顔で醜女と呼ばれていた。そんなレナと婚約していることに不満をもっていた子爵令息のケビンは、下膨れの美少女である義妹のオリヴィアと婚約するため、婚約破棄を企てる。ケビンのことが好きだったわけではないレナは婚約破棄を静かに受け入れたのだが――蔑まれながらも淡々と生きていた令嬢が、他国の王子に溺愛され幸せになるお話――全25話。ハッピーエンド。 ※R15は保険です。小説になろう様でも掲載しています。

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

俊哉君は無自覚美人。

文月
BL
 自分カッコイイ! って思ってる「そこそこ」イケメンたちのせいで不運にも死んでしまった「残念ハーフ」鈴木俊哉。気が付いたら、異世界に転移していた! ラノベ知識を総動員させて考えた結果、この世界はどうやら美醜が元の世界とはどうも違う様で‥。  とはいえ、自分は異世界人。変に目立って「異世界人だ! 売れば金になる! 捕まえろ! 」は避けたい! 咄嗟に路上で寝てる若者のローブを借りたら‥(借りただけです! 絶対いつか返します! )何故か若者(イケメン)に恋人の振りをお願いされて?  異世界的にはどうやらイケメンではないらしいが元の世界では超絶イケメンとの偽装恋人生活だったはずなのに、いつの間にかがっちり囲い込まれてるチョロい俊哉君のhappylife。  この世界では超美少年なんだけど、元々の自己評価の低さからこの世界でも「イマイチ」枠だと思い込んでる俊哉。独占欲満載のクラシルは、俊哉を手放したくなくってその誤解をあえて解かない。  人間顔じゃなくって心だよね! で、happyな俊哉はその事実にいつ気付くのだろうか? その時俊哉は? クラシルは?  そして、神様念願の王子様の幸せな結婚は叶うのだろうか?   な、『この世界‥』番外編です。  ※ エロもしくは、微エロ表現のある分には、タイトルに☆をつけます。ご注意ください。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

男のオレが無理やり女にされた結果

M
現代文学
自称「神」を名乗るデブ女によって突如、女にされてしまった非モテ童貞男子の童手井(どうてい)は女として生きることの苦悩や葛藤を身をもって学んでいく――。 男だった頃には決して見ることはなかったであろう世界を目の当たりにした童手井(どうてい)が進む未来とは⁉︎ ※本作はムーンライトノベルズにも投稿しています。

サレ妻の冒険〜偽プロフで潜入したアプリでマッチしたのが初恋の先輩だった件〜

ピンク式部
恋愛
今年30歳になるナツ。夫ユウトとの甘い新婚生活はどこへやら、今では互いの気持ちがすれ違う毎日。慎重で内気な性格もあり友達も少なく、帰りの遅い夫を待つ寂しい日々を過ごしている。 そんなある日、ユウトのジャケットのポケットからラブホテルのレシートを見つけたナツは、ユウトを問い詰める。風俗で使用しただけと言い訳するユウトに対して、ユウトのマッチングアプリ利用を疑うナツ。疑惑は膨れあがり、ナツは自分自身がマッチングアプリに潜入して動かぬ証拠をつきつけようと決意する。 しかしはじめて体験するマッチングアプリの世界は魅惑的。そこで偶然にもマッチしたのは、中学時代の初恋の先輩、タカシだった…。 R18の章に※を指定しています。

処理中です...