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番外編 Arabian Nights編

Arabian Nights 2

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 ――嫌がらせ、か……。
 そう思いながら、立ち去る後ろ姿を眺めていると、
「司様――! 勝手に歩き回らないで下さい、と申し上げたはずです!」
 と、寡黙な印象を与える長身の男が、側に追いついて来て、憮然と言った。
 彼は、ドクター・刄とだけ呼ばれていて、主治医として護衛として、司が幼い頃から共にいる。そのせいか、このところ小言も増えて来て――。いや、それは司のせいであっただろうか。
 司は、フンっと鼻を鳴らし、
「――……」
 刄の叱責に言い返そうとしたが、ふと、さっきの占い師の言葉が脳裏を過り、言葉を喉もとで圧しとどめた。
 ――あなたの言葉が、身近な人間を死なせてしまう……。
 もちろん、そんな言葉など、ただの捨て台詞で、信じるに値するものではないのだろうが。
 それに、占いを信じない、と言ったのは、司自身であるのだから、そんな言葉に縛り付けられるなど、馬鹿げている。それではまるで、自ら呪いの中にはまって行くようなものではないか。
 ――あんな言葉を気にするなど……。
 司は自嘲のように唇の端を持ち上げて、
「そうだったな。――今日はもうホテルへ戻ろう」
 と、歓楽街に背中を向けた。
 戸惑ったのは、刄である。
 当然、司の口からは、刄の言葉に対する反論と、続くであろう小言への不満が返って来ると思っていたのだ。
「……どこか具合でも悪いのですか?」
 そんな言葉が刄の口から零れたのも、無理のないことであっただろう。
「どういう意味なんだ、それは?」
 司は憮然とした顔で、問い返した。
「言葉通りの意味です。違うのなら構わないのですが。――車を回して来ます」
 と、刄が踵を返した時であった。
 自動小銃の空気を引き裂くような銃声が、賑わう夜に塗れて、放たれた。
 見れば、数人――見て取れただけでも、六人の若い男たちが、アラビア語で何かを叫びながら、ロシア製の旧式自動小銃カラシニコフを、辺りの観光客に向けて乱射している。集団で行動するツアー客は、誰もの目に留まりやすいのだ。
「司様――っ!」
 刄は咄嗟に司を抱えて地面に伏せ、逃げ惑う人々や、飛び交う叫びや悲鳴の中、隙を見て建物の陰へと身を隠した。
「観光客はエジプトから出て行け――!」
 再び、アラビア語で怒号が飛び、さらに銃弾が降り注いだ。
「……無差別テロか?」
 収まることのない銃声を耳に、司は傍らの刄へと視線を向けた。
 この国には――イスラムの教えを持つ諸国には、別の宗教を持つ外国人を『罪深きくそ』と信じ込んでいる人間も少なからずいて、その思い込みから過激な行動に走る者たちも、いる。
「恐らく……。急いでここを離れましょう」
 路上には、すでに夥しい数の人々が倒れ、それでも銃声が止む様子はない。
 撃ち放たれた銃弾も、一〇〇や二〇〇を軽く超えるだろう。


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