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XX Ⅰ
XX Ⅰ-42
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二人して、司の体に釘付けになった刹那――、
「ぐあっ!」
一人が横っ面を歪めて、吹っ飛んだ。続いて、もう一人も、顎に蹴りを食らって、派手に吹き飛ぶ。
あっと言う間に二人の男を片付けて、司がライティング・デスクの上から身を起こした。
「クックッ……。大したものだ。君の体重の倍以上はある男たちを、一撃で伸すとは――。それにしても、君がトルソーだったとはな」
一人残ったリーダー格の男は、まだ切り札を持っているせいか、慌てるでもなく、笑って言った。
「ぼくは何も喋らない。クリスは何も知らない。それでもまだ根比べを続ける積もりか?」
司は冷然と吐き捨てた。
「ああ、続けるさ。このお坊ちゃまは、すぐに堕ちる」
リーダー格の男が言うと、さっき、司の一撃を食らって床に倒れていた男が、司の足をつかみ取り、そのまま床に引き倒した。
ダン――っ、と鈍い音が、床に、響いた。
「ぐ――っ!」
「司――っ!」
クリスは、その様子を見て、目を瞠った。
勢いよく床に倒れた司は、頭を打ったのか、焦点の定まらない瞳で、茫と虚空を見つめている。体も緩慢に動くだけで、起き上がる様子も、全く、ない。
「所詮、あの細い体の力だ。チンピラ相手には通用しても、鍛え抜かれた男たちには通用しない。もっとも、ドクター.刄がいれば、こうは行かなかっただろうがな」
「司! 司――っ!」
「さあ、お坊ちゃま。我々は動けない相手であろうと容赦はしない。いつまで黙っていられるか見物だな」
男たちが司の下肢を開き、その狭間に、そそり立つ欲望をあてがった。早くも先端を濡らしているその欲望の塊は、充分な堅さに屹立している。
「やめろおおお――っ! 司に手を出すな! ぼくは何も知らない! 本当に何も知らないんだ――っ!」
グッ、と男の欲望が、司の体を貫いた。
「司―――――っ!」
「司様!」
刄は、ハッと目を開き、ベッドの上に体を起こした。
いつもと変わりない部屋の中である。傍らには、桂がスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「夢……」
嫌な夢だった。司が刄を捜し回っているというのに、刄は出て行けないまま、闇の中へと堕ちて行くのだ。そして、足が抜けなくなった時、司の周りに幾つもの人影が浮かび上がり、その人影が、司の華奢な肢体を引き裂いて行く……。
額や首筋――いや、体中に冷たい汗が吹き出していた。
司とクリスが香港へ経ってから、二日――。
一度も連絡は入っていない。もちろん、入るはずも、ない。
「何をしているんだ……俺は……」
刄は、髪を毟るように、頭を抱えた。
「う、う……」
目を覚ましたのか、桂が刄の背中に、ピタっと張り付く。その感触に刄は顔を上げた。
「あっ、あっ」
薄茶色の瞳が、心配げに刄の顔を覗き込む。
「……。何でもない。少し嫌な夢を見ただけだ」
「あっ、あっ」
桂は、自分も夢を見た、というように、人差し指で、自らの顔を示して見せた。
「そうか……。夢は……もうたくさんだ」
刄は小さな声で、重い言葉を吐き出した。そして、桂を腕の中へと抱き寄せる。
桂は気持ち良さそうに、広い腕の中で、瞳を閉じた。
彼を守ってやらなければならない、のだろう。他に誰一人頼ることが出来ない彼を、決して一人にしてはならないのだろう。
「ぐあっ!」
一人が横っ面を歪めて、吹っ飛んだ。続いて、もう一人も、顎に蹴りを食らって、派手に吹き飛ぶ。
あっと言う間に二人の男を片付けて、司がライティング・デスクの上から身を起こした。
「クックッ……。大したものだ。君の体重の倍以上はある男たちを、一撃で伸すとは――。それにしても、君がトルソーだったとはな」
一人残ったリーダー格の男は、まだ切り札を持っているせいか、慌てるでもなく、笑って言った。
「ぼくは何も喋らない。クリスは何も知らない。それでもまだ根比べを続ける積もりか?」
司は冷然と吐き捨てた。
「ああ、続けるさ。このお坊ちゃまは、すぐに堕ちる」
リーダー格の男が言うと、さっき、司の一撃を食らって床に倒れていた男が、司の足をつかみ取り、そのまま床に引き倒した。
ダン――っ、と鈍い音が、床に、響いた。
「ぐ――っ!」
「司――っ!」
クリスは、その様子を見て、目を瞠った。
勢いよく床に倒れた司は、頭を打ったのか、焦点の定まらない瞳で、茫と虚空を見つめている。体も緩慢に動くだけで、起き上がる様子も、全く、ない。
「所詮、あの細い体の力だ。チンピラ相手には通用しても、鍛え抜かれた男たちには通用しない。もっとも、ドクター.刄がいれば、こうは行かなかっただろうがな」
「司! 司――っ!」
「さあ、お坊ちゃま。我々は動けない相手であろうと容赦はしない。いつまで黙っていられるか見物だな」
男たちが司の下肢を開き、その狭間に、そそり立つ欲望をあてがった。早くも先端を濡らしているその欲望の塊は、充分な堅さに屹立している。
「やめろおおお――っ! 司に手を出すな! ぼくは何も知らない! 本当に何も知らないんだ――っ!」
グッ、と男の欲望が、司の体を貫いた。
「司―――――っ!」
「司様!」
刄は、ハッと目を開き、ベッドの上に体を起こした。
いつもと変わりない部屋の中である。傍らには、桂がスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「夢……」
嫌な夢だった。司が刄を捜し回っているというのに、刄は出て行けないまま、闇の中へと堕ちて行くのだ。そして、足が抜けなくなった時、司の周りに幾つもの人影が浮かび上がり、その人影が、司の華奢な肢体を引き裂いて行く……。
額や首筋――いや、体中に冷たい汗が吹き出していた。
司とクリスが香港へ経ってから、二日――。
一度も連絡は入っていない。もちろん、入るはずも、ない。
「何をしているんだ……俺は……」
刄は、髪を毟るように、頭を抱えた。
「う、う……」
目を覚ましたのか、桂が刄の背中に、ピタっと張り付く。その感触に刄は顔を上げた。
「あっ、あっ」
薄茶色の瞳が、心配げに刄の顔を覗き込む。
「……。何でもない。少し嫌な夢を見ただけだ」
「あっ、あっ」
桂は、自分も夢を見た、というように、人差し指で、自らの顔を示して見せた。
「そうか……。夢は……もうたくさんだ」
刄は小さな声で、重い言葉を吐き出した。そして、桂を腕の中へと抱き寄せる。
桂は気持ち良さそうに、広い腕の中で、瞳を閉じた。
彼を守ってやらなければならない、のだろう。他に誰一人頼ることが出来ない彼を、決して一人にしてはならないのだろう。
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