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XX Ⅰ
XX Ⅰ-22
しおりを挟むクリスは部屋を見渡し――実際、見渡す広さの部屋を見渡し、傍らの司に視線を向けた。
「聞いてもいいかい?」
と、問いかける。
「どうぞ」
「君のお兄様は、君がぼくとの結婚に同意していないことを知らないとか?」
「……知ってるよ。結婚の意思がないことも、相手が誰であろうとその意思が変わらないことも、全部」
司は窓際へと足を向け、雨垂れを眺めるように、静かに言った。
「まあ、元々が政略結婚で、君の意思が関係ないのは解るが……。寝室まで一緒にする、というのは、柊氏は君の体のことも――あ、いや、その……」
クリスは不用意な言葉に口ごもった。
「知らないよ」
先に続く言葉を察するように、司は言った。
「あの人は、ぼくを男だと思っている。柊だけじゃなく、他の使用人も全部……。ぼくの体のことを知っているのは、お父さまとドクター.刄だけだ。でなければ、ぼくは十六夜の総帥にもなっていないさ。盲でも、子供を作れる柊が後継者になっている」
「司――。もし君が、子供のことでぼくとの結婚に踏み切れずにいるのなら――」
「クス」
不思議な笑みが、零れ落ちた。
「え?」
クリスは戸惑い、
「司?」
と、その笑みの意味を、問いかける。
「自信家だな、あなたは――。もし、ぼくが《本物の女》で、体内受精で子供を生める体を持っているのに、あなたとの結婚を拒んでいるのだとしたら、どうするんだい?」
不敵、としか言いようのない瞳だった。
「……。君なら、そんな神秘を秘めていても不思議じゃない。それに、すぐに『YES』という相手には閉口している。ぼくは諦めないさ」
臆せず微笑み、クリスは司を腕の中へと抱き寄せた。黒い髪に口づけて、唇へとキスを重ねる。
「ん……」
司の手が、加減を望むように、クリスの腕を握りしめた。あのパリの夜よりも、さらに官能的な口づけだった。
小柄な体躯で、小さな顎を持ち上げてキスを受ける司の姿は、仔犬のように、愛らしい。
クリスは、雨の模様を描く窓に司を押し付け、ボトムの上から、司の下肢の狭間に指を這わせた。刹那、司の体が堅く強ばり、加減するようにつかんでいたクリスの腕に、グッと指を食い込ませた。
官能を堪えているのでは、ない。拒んでいる、のだ。
「……。当然だな。あんな思いをさせた後だ。怖がられても仕方がない」
ポンポン、と司の背中を軽く叩き、クリスは苦い笑いで体を離した。
「先にバスを使わせてもらうよ。時差ボケで倒れる前に、休んだ方が良さそうだ」
と、笑みを残して翻る。
拒まれたことにショックを受けなかった訳では、ない。ただ、失いたくなかったのだ。
「……ありがとう、クリス」
不意に届いたその声は、凍える背中を温めた。多分、それだけで充分、幸せに、なれた。
「初恋の気分だよ。ドキ、ってね……」
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