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さんぽ

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「ずいぶん元気になったね。そろそろ散歩に行けそうかな?」

 ――さんぽ? なに、それ?

「ハーネスをつけて」

 ――なに、これ? 体に変なものが巻き付いて、キモチ悪い。

「車で少し行くと、芝生のある大きな運動公園があるんだよ」

 ――このうっとうしいもの、早く外して!



「着いたよ。さあ、歩いて」

 ――どこ、ここ? 広い! 気持ちいい!
 ――でも、家の外って……また捨てられるの?

「歩かないのかい?」

 ――黙っていなくなったりしない?

「芝生の感触が嫌なら、遊歩道にしようか?」

 ――わたしを捨てるんじゃないの?

「色々な匂いがするからねェ。ゆっくりでいいんだよ」

 ――知らない匂い。
 ――石畳の匂い、草の匂い……初めての匂い。
 ――でも、どれも気持ちいい。

 色々な匂いを追っていたら、いつの間にか体に巻き付くうっとうしいもののことも忘れて、歩いていた。
 ハッと気づいて振り返ると、あの人はちゃんと後ろにいた。

 ――どこにも行っていない。
 ――ずっとわたしと一緒に歩いてくれている。

 うんうん大丈夫だよ、ここにいるよ、と振り返るわたしにうなずいてくれる。
 わたしはまた匂いを確認しながら、公園を歩く。
 少し冒険して、芝生の上を歩いてみる。
 足のうらがもぞもぞと変な感触になる。
 でも、すぐにそれも気持ちよくなった。
 そして、またハッとして振り返る。

 ――大丈夫、あの人はまだついて来ている。
 ――わたしは一人ぼっちになっていない。

 そんなことを何度も繰り返して、はじめての『さんぽ』はドキドキして終わった。




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