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わかりやすい家
しおりを挟む知らない匂いのする、知らない部屋。
どこに何があるのかもわからない。
――わたしはどこにいたらいいの?
「さあ、古いハーフケットだけどベッドが出来たよ。ケージの中の方が安心するだろ?」
――わたしの部屋?
――ここはわたしだけが使う部屋?
誰も入って来ないし、急に抱き上げられたり、怒られたりしない。
――でも、トイレに行きたい。
病院で点滴をしてもらって、体に水分が行き渡ったから――。楽になったけど、トイレに行きたくなってしまって。
でも、見つかる所でしたら、きっとまた怒られてしまう。大事なものを汚して、叩かれてしまう。どこか見つからない処に行って、誰も見ていないところで隠れてしなければ……。
「うろうろしてるのは、おしっこかな?」
そっと抱き上げられて、ペットシーツの敷かれたケージの上に下ろされた。
さっきの部屋とは違う部屋。
さっきの部屋とは隣り合わせで、入り口も違う。
トイレとご飯を食べる場所が同じところにあるんじゃなくて、ちゃんと別の部屋になっている。
――ここでしてもいいの?
また怒られるかも知れない。
でも、体もまだだるいし、これ以上我慢していられない。
迷いながらもおしっこをすると、
「よく出来たねェ! 賢いなぁ! すごい、すごい!」
その人は色々な言葉で褒めてくれた。頭だけでなく体中を撫でてくれ、ほっぺたをすりすりしてくれた。
――うれしいの?
――わたしがここでおしっこをすると、よろこんでくれるの?
――怒ったりしないの?
「初めてなのに、よく出来たねェ!」
――この家、はじめてなのに、わかりやすい……。
――おなかが空いた……。
「人間の食べ物はダメだよ。おなかを壊すからね。決まった時間に、決まった量だけ食べようね」
――そうなの? あの娘はいつでも何でもおいしいものを分けてくれたのに。
――ケチ! 少しくらい食べさせてくれたっていいのに!
――こんなごはん、おいしくない!
「じゃあ今日は特別。ミルクパウダーをかけてあげよう」
――なに、それ? 甘い匂い。おいしそう。
「『ちま』も好きだったからね」
――ちま? だれ、それ?
――ださいネーミング。
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