478 / 533
十九夜 白蛇天珠(しろえびてんじゅ)の帝王
十九夜 白蛇天珠の帝王 19
しおりを挟む「見せてみよ」
角端が言った。
もちろん有雪も気になったので、一緒になってオルゴールの中を覗き込む。
もし、その石が玉藻前の言うようなこの世のものではない聖石なら、とてつもない霊力を秘めていてもおかしくはない。
だが――。
「もうこの石に霊力は残っておらぬな」
壊れた石を取り、角端が言った。
「えー……、残念!」
――それだけ?
その天珠が類稀なる霊力を秘めた聖石であるのなら、それを求める者はこの事実――『壊れてしまった』という事実に、発狂してしまうに違いない。
「何じゃと! この娘、白蛇天珠を壊した揚句、宿りし力まで無きものにしたというのか!」
そうそう、こんな風に――。と、頷きながら、有雪は突然背後から聞こえた声に、仰天した。
一体、いつから話を聞いていたのか、開いた窓から飛び込んで来たのは、絶世の美姫、玉藻御前だったのだ。先程、神棚で見た時とは違い、原寸大サイズである。ならば、あの姿は神棚の社を通して、御神鏡が映し出していた幻影のようなものであったのかも知れない。だから、あの場から動くことも出来ずにいたのだ。
そして、本体を伴ってやって来た、ということは……。
「ま、待て――。その娘もワザと壊したわけではないのだから――」
と、有雪は何とか怒りを収めてもらおうとしたのだが、
「妾の美を満たすための珠玉を、よくも――!」
玉藻前が聞く様子はない。
「美を満たす……?」
「悪喰の女狐の好物だ」
壊れた白蛇天珠をオルゴールに戻して、涼しい顔で角端が言った。
――好物?
なら、食べるために――自らの美の糧とするためだけに、その聖石を欲していたというのだろうか。
「……」
女という生き物は、人であろうと魔物であろうと、限りなく不可解で、真意が読めない。
「でも、あれって私が貰ったモノだし、壊しても誰かに文句を言われる筋合いもないし――」
「おいっ!」
不満げにもっともな理論を持ち出す花乃の口を慌ててふさぎ、有雪は恐る恐る玉藻前の方を振り返った。
本来なら、こんな気の休まることのない役割は、生真面目な検非遺使に放り投げてしまうのだが……その当人がいないのでは仕方がない。ここは平安の世ではないのだから。
「ほう。妾がこんな小娘にコケにされるとは――。『捨て呪』一つ祓えぬ身で、帝王とは片腹痛いわ!」
ふさ、っと背後の九尾が揺れたかと思うと、玉藻前の両手には、黄金色の尾毛が二本輝いていた。
「妾の楽しみを奪ったのであれば、もう一つの楽しみに付き合ってもらわなくては、のう」
美しい繊手が優雅に動き、それに合わせて黄金の尾毛が空を切った。
突き刺さるような動きでもなく、意思を持つようにするりと舞い――。
だが、そんな尾毛の一本や二本で、何を為そうというのだろうか。
「なっ――!」
「え……!」
玉藻前が放った二本の尾毛は、有雪と花乃、二人の首に絡み付き、そのまま輪になって首を絞め――いや、絞めずに巻きついただけだった。
「……何をした?」
首に巻きつく黄金色の尾毛に触れて、警戒しながら有雪は訊いた。
喉を絞めるでもなく、それどころか指一本が入るくらいの余裕を残した巻き方で、金色の輝きと合わせてみれば、品の良い細い細い飾り輪のようでもあった。
「何か……素敵!」
花乃も、オルゴールのフタについた鏡で自分の姿を確認して、きらきらと輝く九尾狐の尾に、女の子らしく歓んでいる。
だが――。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
異世界でみんなに溺愛されています!
さつき
ファンタジー
ダンジョンの最下層で魂の傷を癒していたレティア
ある日、最下層に初めての客が?
その人達に久し振りの外へ連れて行ってもらい・・・
表紙イラストは 花兎*さんの「Magicdoll*Maker」で作成してお借りしています。↓
https://picrew.me/image_maker/1555093
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる