439 / 533
十八夜 黄玉芝(こうぎょくし)の記憶
十八夜 黄玉芝の記憶 4
しおりを挟むやっと自分で行くことにして、舜は、バサリ、と背中の翼を広げて見せた。わけあって長期間封印されているため、背中から出すことは出来ても羽ばたけないのだが、落下速度が緩やかになる程度には使えるため、前方に高く跳び上がれば、水に濡れることなく中央の島まで跳び移れる。
高く飛び上がれれば、の話だが……。
「舜……。ここ、天井低いし、無理があるんじゃ……」
そのデューイの言葉の通り、島に跳び移れるほどの高さまで跳ぶには、天井を砕かなくては無理だろう。しかも、島の大きさは一歩分の歩幅くらい――。目測を誤れば、湖に落ちる。
結局、翼も役に立たず、舜は諦めて翼を収め、ズボンの裾を捲り上げた。
――今度はホントに行くんだな?
ここにいる誰もがそう思ってホッとした時――。
「これでどうだ――!」
舜は両腕を持ち上げ、手のひらを開いて湖面に翳した。
体の内から漲る気が、翳した両手から迸る。
――魔氷の気功!
刹那、目が眩むような閃光が駆け抜けた。
全てのものを凍りつかせる凄まじい氷気は、澄んだ湖の上を滑るように撫で、瞬く間にその湖面を凍りつかせた。
底まで透き通っていた湖は、今や、白く凍結した氷湖になっている。
「――ちゃんと元通りにしてから帰れよ」
索冥の言うことはもっともで、これでは、今後、黄玉芝が生えてくれるかどうか判らない。――いや、この凍えるような氷気の中、芽吹く生命などないだろう。
何にしろ、この氷気の元々の持ち主は……。
「さあ、これで濡れずに歩ける」
舜は言うと、早速、黄玉芝へと氷の上を渡っていた。
ウエストポーチに半分押し込まれ、落ちないように紐でくくられたスケルトンのブタの貯金箱の中には、灰の姿のデューイがいる。
――え? それが新しい入れ物なのかって?
その通り。
舜が日本で稼いだ魔物退治代で買ったのが、その貯金箱である。ガラスのビンのようにフタを開け閉めする必要もなく、硬貨を入れる細い穴から出入りできるし、アクリル製でで軽い上に、スケルトンで中も見える。――いや、舜は別にデューイの様子が見えなくてもいいのだが、デューイのたっての希望で、ガラスのビンと同じように、中から外が見えるタイプの貯金箱にしてもらったのだ。
それというのも、この青年、その夜の化身のように美しい少年のことをずっと見ていたい、という性癖――事情のためで――。おっと、こんな話をしている間に、舜が黄玉芝の生える島に着いてしまった。
刹那――。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる