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十八夜 黄玉芝(こうぎょくし)の記憶

十八夜 黄玉芝の記憶 4

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 やっと自分で行くことにして、舜は、バサリ、と背中の翼を広げて見せた。わけあって長期間封印されているため、背中から出すことは出来ても羽ばたけないのだが、落下速度が緩やかになる程度には使えるため、前方に高く跳び上がれば、水に濡れることなく中央の島まで跳び移れる。
 高く飛び上がれれば、の話だが……。
「舜……。ここ、天井低いし、無理があるんじゃ……」
 そのデューイの言葉の通り、島に跳び移れるほどの高さまで跳ぶには、天井を砕かなくては無理だろう。しかも、島の大きさは一歩分の歩幅くらい――。目測を誤れば、湖に落ちる。
 結局、翼も役に立たず、舜は諦めて翼を収め、ズボンの裾を捲り上げた。
 ――今度はホントに行くんだな?
 ここにいる誰もがそう思ってホッとした時――。
「これでどうだ――!」
 舜は両腕を持ち上げ、手のひらを開いて湖面に翳した。
 体の内から漲る気が、翳した両手から迸る。
 ――魔氷の気功!
 刹那、目が眩むような閃光が駆け抜けた。
 全てのものを凍りつかせる凄まじい氷気は、澄んだ湖の上を滑るように撫で、瞬く間にその湖面を凍りつかせた。
 底まで透き通っていた湖は、今や、白く凍結した氷湖になっている。
「――ちゃんと元通りにしてから帰れよ」
 索冥の言うことはもっともで、これでは、今後、黄玉芝が生えてくれるかどうか判らない。――いや、この凍えるような氷気の中、芽吹く生命などないだろう。
 何にしろ、この氷気の元々の持ち主は……。
「さあ、これで濡れずに歩ける」
 舜は言うと、早速、黄玉芝へと氷の上を渡っていた。
 ウエストポーチに半分押し込まれ、落ちないように紐でくくられたスケルトンのブタの貯金箱の中には、灰の姿のデューイがいる。
 ――え? それが新しい入れ物なのかって?
 その通り。
 舜が日本で稼いだ魔物退治代で買ったのが、その貯金箱である。ガラスのビンのようにフタを開け閉めする必要もなく、硬貨を入れる細い穴から出入りできるし、アクリル製でで軽い上に、スケルトンで中も見える。――いや、舜は別にデューイの様子が見えなくてもいいのだが、デューイのたっての希望で、ガラスのビンと同じように、中から外が見えるタイプの貯金箱にしてもらったのだ。
 それというのも、この青年、その夜の化身のように美しい少年のことをずっと見ていたい、という性癖――事情のためで――。おっと、こんな話をしている間に、舜が黄玉芝の生える島に着いてしまった。
 刹那――。

 
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