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十八夜 黄玉芝(こうぎょくし)の記憶

十八夜 黄玉芝の記憶 2

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 天帝は、完璧な世界を模索し、色々な国を創っては、人という種の不完全さにそれを阻まれ、今では結界に籠っている。

 炎帝は、黄帝を手に入れるか、それが適わぬなら殺してしまうことに己の存在意義を見て、それ以外のものに価値を見ない。

 黒帝は、この世の全てを手に入れ、支配することを望み、志半ばで、黄帝と炎帝に倒され、現世に甦って尚、黄帝の息子である舜と炎帝に倒された。

 舜帝は、己には何も望まず、人々の平和と幸福をただ願い、民の暮らしが良くなるようにまつりごとに力を入れた。

 黄帝は、世の人々が求めてやまない伝説の片鱗や、奇跡、希望や絶望を生み出す神器、呪器を拾い集め、隠すように保管している。


 麒麟は――そんなものたちに、帝王の威光を確信する。

 何を持って、帝王と云うのか。
 人にない力なのか、上に立つ者が持つ器なのか。
 そんなものではない……。
「こいつには、成し遂げようとする志もない」
 索冥が言った。
「まあ、まだ子供だしね」
「虞氏も変わらない年の少年だった」
「――虞氏?」
 舜は首を傾げたが、
「ああ、そういえば、彼は特別な力を持たない『人』だったわねぇ」
 と、舜の問いを全く無視して話は進んだ。
「おまえが人間のために勝手に黄玉芝を持ち出した時は驚いたなぁ」
 黄麟や炎駒の言葉に、
「そうでもしないと、虞氏は笑ったまま継母に殺されるような危なっかしい奴だったんだ……」
 ギュッと指を結んで、索冥は言った。
 なんだか、事情を知らない舜は仲間はずれである。
 その虞氏という人物のことも気になるが、今は――、
「やっぱりここに黄玉芝があるんだな?」
 麒麟たちの会話から零れた言葉に、今度こそは、と食い付いた。
 黄玉芝――。
 上芝じょうしは車馬の形をし、中芝ちゅうしは人の形、下芝かしは馬、牛、羊、豚、犬、鶏という六種の家畜の形をしているという、不思議な形状の神芝しんしである。車には雨や日差しを避けるためのきぬがさがあり、茸のような形をしているらしい。
 そして、煎じて飲めば不老不死の身となって、昇仙出来る、という……。
「あったとして、何に使うんだ?」
 索冥が訊いた。
 普通の人間が不老不死を望んで使うのならともかく、死に切れない一族の一人である舜に、そんなものが必要か、と問われれば……。
「それがさあ、最近、ずっと紫金色しこんじきに光る茸を探す夢を見ててさぁ――。黄帝が、『ああ、それならきっと、蓬莱山に生える黄玉芝のことでしょう。行ってみたら判るのではないですか?』とか、またわざとらしいことを言うから、確かめに来たんだ」
 決して、不老不死に憧れて、とかいう俗な理由ではない、と、舜は言った。
 誰かに呼ばれている、というか、誰かの記憶に引きずられている、というか……。
「そう言われても、黄玉芝はいつ生えるか判らない神芝だ。与える価値のある者がいなければ、姿を見せない」
 そんな索冥の言葉を聞いて、デューイなどはもう、伝説の片鱗を見るような神芝の存在に、これ以上はなく胸をときめかせて期待している。
「きっと、黄帝が言うのなら、生えてるんでしょ。連れて行ってあげたら?」
 黄麟の言葉に、さらにデューイの胸は高鳴った。
 そして、舜は――。
「その黄玉芝って、黄帝の回し者じゃないだろうな?」


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