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十七夜 憑き物の巣
十七夜 憑き物の巣 25
しおりを挟む「――で、誰かいたのか、あの部屋に?」
一通り、部屋が散らかっている理由を簡単に説明すると、舜は再び同じ質問を繰り返した。
「そう言われても、鍵を持っているのはおばさんと祐樹だけだし……」
泥棒ではなかった、と知って安心したのかどうかは判らないが(余計に不安になったかも知れない)、真綾はもう一度首を傾げた。
「じゃあ、あんたはあの部屋にどうやって入ったんだ? 鍵は?」
鍵は掛けて出たはずである。
祐樹が鍵をかけるところは舜も確認したし、
「僕も見たよ。鍵をかけ忘れないように注意してあげようと思ってたから、よく覚えてる」
未だ、ガムテープに貼りついたままの姿で、デューイが言う。
もちろん、舜のポケットの中である。
かつて人間であった彼が、出掛ける時には鍵をかける、という生活習慣を念頭に言うのだから、間違いない。
だが――。
「え? 鍵は空いてたわよ。だから、入れたんだもの」
舜の問いに、真綾は言った。
デューイの声は、真綾にはもちろん聞こえていない。現実社会を考慮して、デューイが真綾の鼓膜に入っていないためである。
「なら、オレたちが家を出てから、あんたが中に入るまでに、誰かが鍵を使って中に入ってたんだ」
それを確信して、舜は言った。
「『らら』じゃないのね……?」
「もともと中にいる奴なら、鍵を開ける必要はない」
「すごい、舜! シャーロック・ホームズみたいだっ!」
……このデューイの賛辞は大袈裟すぎるので、無視していただいて構わない。本家名探偵に失礼である!
第一、いつもは考えて動くよりも、五感と第六感のままに突き進んでしまうのが、この美しい少年の日常なのだから。
もちろん、皆さまはよくご存知だろうが。
何より、その灰の姿の青年が、この生まれながらの夜の一族の少年を褒め称えるのは、恋は盲目、という事情もあったりして……。いや、これも今更言う必要はないか。
「でも、誰なのかしら? 鍵を持ってるなんて、身内くらいよねぇ……」
結局、誰なのかは解らないままで――と、思っていたら、
「そういえば以前、祐樹が鍵を落として、向かいの部屋の人が拾って届けてくれたって言ってたわ」
「鍵は戻って来たんだろ? なら問題ないじゃないか」
その舜の言葉に、
「違うよ、舜。拾った鍵で合い鍵を作ったんだよ、きっと」
と、現実社会を知らない舜に代わって、デューイが耳の中でアドバイスをする。
ワトスンも結構、大変なのだ。
「合い鍵? 誰でも作れるような鍵で暮らしてるのか、ここの奴らは? 黄帝の封印なんか、あいつ以外には絶対、解けないぜ」
「真綾が聞いてるよ、舜!」
慌てるデューイに、
「……あなた、時々変な独り言を呟くわよねぇ?」
やはり、真綾も訝しく思っているらしく、舜の中国語に眉を寄せる。
「人間ほど変じゃないけどな」
何食わぬ顔で舜は言い、
「取り敢えず、向かいの部屋の住人が怪しいんだな?」
そういえば、祐樹の母親が救急車で運ばれた時も、向かいの部屋の住人がドアの隙間から覗いていた。
その時は、単なる好奇心だろう、と気にも留めなかったし、重要なこととも思えなかったが、今から思えば、あの時嗅いだ匂いが、今日、祐樹の部屋で嗅いだ匂いだったに違いない。
だから、部屋で微かな匂いを嗅いだ時、知っている匂いだ、と感じたのだ。
「オレの嗅覚も、やっぱり捨てたもんじゃないな」
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