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十五夜 穆王八駿(ぼくおうはっしゅん)の因
十五夜 穆王八駿の因 22
しおりを挟む櫻花と大花の話を聞くと、二人は元々仲が良く、いつも一緒に話をして過ごしていたらしい。
だが、ある日、大花の元に見合い話が舞い込んで来て(覇王花の持って来た話らしいが)、その時に全てが変わってしまったのだ、というのだ。
――相手の男が、櫻花の方に恋をした?
人間界でもよく耳にする悲劇である。
オーディションでも、一緒に付いて行った友人の方がスカウトされてデビューしたり――と、女の仲がこじれるのは、珍しくない。
見合い相手が、大花と共にいる櫻花の方に恋をしてしまうのは、少なからず仕方のないことだったかも知れない。
舜はそう思ったのだが――。
この二人の場合は、そうではなかったらしい。
大花の見合い相手は、ちゃんと大花のことを愛おしく見てくれ、櫻花も二人を応援していた、というのだから、舜の読みは外れてしまった。
――なら、どこに問題が?
それは、その見合いの後の話なのである。
皆さまはご存じないかも知れない。
ラフレシアという花が、何のために肉の腐ったような悪臭を放つのか。
茎も葉も根もないその花が、何故、花らしくないそんな匂いを放つのか。
そして、こちらの方は、すでに察しておられるだろう。
舜も少し前には気付いていたのだが、どうやらここは植物たちの精霊の集う世界のようで、あの山の中にある精神世界のようなものらしい。
櫻花はこの桜の木の精霊であるようだし、大花はラフレシア、そして、離れたところで待っている絳雪は椿の精霊――。
他にも、鈴蘭はすずらんの精霊、香玉は牡丹の精霊、藤葛は藤の精霊、百合はゆりの精霊、番紅花はサフランの精霊……様々な精霊たちが棲んでいる。
そして、彼女たちは雄しべ、或いは雌花なのだ。
その雌花たちの集う場所の周囲には、それぞれの雌しべ、雄花たちのいる世界があり、舜が突然、見知らぬ青年に抱きつかれた場所――そこが絳雪、椿の精霊の雄しべが棲む世界だったのだろう。
舜が体中に付けられたあの黄色い粉は、雄しべが持っている花粉であったに違いない。
そんなことが判って来ると、彼女たちの言っている病気の原因も見えて来る。
桜は弱い植物で、枝を切ったり折ったりするだけでも、そこから腐って枯れてしまうことがある繊細な樹なのだ。
病気にもかかるし、何より害虫が付きやすい。
いくら薬を散布しても、毛虫やアメシロ……次々に蟲が涌いて来る。
そのために、自宅の庭先には桜の木は植えない方がいい、とまで言われている。
無論、パッと咲いてパッと散ることも、桜が忌み嫌われる理由の一つなのだが、その美しい満開の様と、幻想的な散り際は、どんな花より美しい。
それでも、家の側には植えてはいけない。
建物から離して植えること――。
そう言われるのは、生木だけでなく、枯れ木や朽ち木にも蔓延る害虫――それを恐れる所以である。
舜を介して、絳雪に付いた害虫――それが全ての原因なのだ。
皆、その害虫を恐れて、櫻花に近づかずに過ごしている。
「索冥、櫻花の病の原因は、あの白アリなんだな?」
櫻花の背をさする大花の様子を見ながら、少し小声で、舜は訊いた。
「ああ」
「なら、そいつを駆除する薬さえあれば、もう彼女たちが蟲を恐れる必要も――」
「白アリを殺すほどの強い薬を散布すれば、彼女もその場で死んでしまう。もちろん、その周囲に生えている花や木も」
「――」
「言っただろ。もう助けることはできないと」
白アリを駆除するための薬を使えば、桜の木そのものが枯れてしまう。
もともと人間が自分たちの家屋敷を守るために作った薬なのだ。生木のことなど考慮されてはいない。
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