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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 23

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「ここにいろ。あいつを砂漠の底から引きずり出して来てやる」
 そうデューイに告げ、灰の体の舜が翻ると、
「や……め……」
 か細い声が、耳に届いた。
 耀輝が零した言葉である。
「――生きているのか?」
 あの瀕死の状態での魂替えにもかかわらず――。普通なら考えられないことである。
 だが、その命は今にも尽きてしまいかねない。
「あいつは、自分が何をしたのか、知るべきなんだ」
 舜はそう言ったが、もう動きそうにない耀輝の指が、砂を、掴んだ。まるで、舜を行かせまい、とするかのように。
「どうして――」
 耀輝の閉じた瞳から、涙が零れた。
「見られ……たく……な……い……」
 それが最後の言葉だった。
 その言葉だけを砂漠に残し、耀輝は静かに呼吸を止めた。
 舜には――デューイにも索冥にも、何も言うことは出来なかった。
 ただ、耀輝の体が徐々に変化し、ありのままの姿に戻って行くのを見つめていた。
 それは、ただの小さな蟲の姿だった。
 砂の色をした、何の飾り気もない、アリジゴク――。灰色一色のその体は、誰も見向きもしない、醜い姿であったのかもしれない。――いや、彼女のことを知らなければ、舜もきっと、そう思っていたに違いない。
 皆、何も言わないまま――言いだせないまま、長く長く、その場にいた。
 その内、何処からともなく一匹のアリが姿を見せ、かつての天敵であったアリジゴクの死骸の周りを這い始めた。
 もちろんそれは、一匹ではおさまらず。
 二匹、三匹――。次々に、耀輝の体にたかり始める。
「こいつら――」
 デューイが、集まって来る蟻たちを払いのけようと、手を伸ばした。
 だが――。
「よせ」
 舜は言った。
「やっと自然の一部に還ったんだ。邪魔してやるなよ」
「……」
 蟻の数は増え続け、かつての敵を黒く残酷に覆っていく。
 やがてそれは長い行列になり、耀輝の亡骸を運び始めた。
 砂の上には、やっと外れた金色の箍だけが取り残された。
 耀輝の魔力を封じていた、『緊箍児』である。それを拾い、
、これで魔力は封じても、あの姿を保つだけの力を封じたりはしなかったんだな……」
 牡丹の花の精霊だ、と名乗った、あの美しい姿を奪うことだけは、黄帝も……。




 どちらが正しいのかなど、判らない。
 何が美しく、何が醜いのかも、判らなくなってしまった。
 だが、これだけは、判る。
 彼女の気持ちを知った捲簾大将が、激しい自責と、後悔の念に取りつかれたまま、この先も生きて行かなくてはならない、ということ――。
 そういう意味では、彼女は、永遠に等しい、捲簾大将の心を手に入れたのかもしれない。自分の命と引き換えに。
 中国――。
 あれから、捲簾大将に耀輝の全てを伝え、魂替えをしてもらった舜とデューイは、奇峰の最高峰――秘境と呼ばれる我が家に戻って来ていた。
 ちなみに索冥は、
「だから、おまえたちに付き合うのは嫌なんだ。毎回毎回、こんなことに……」
 と、口の中でなにやら呟いた後、
「もう帰る。当分、呼ぶなよ」
 と言って、帰ってしまった。
 仁の霊獣である彼にとって、慈愛を注ぎたくなるような懸命な者たちの姿は、人一倍心が引き裂かれてしまうのかも知れない。


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