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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)
十四夜 竜生九子の孖 20
しおりを挟む「おまえ、死にそうになるまで我慢してないで、捲簾大将に餌を運んで来てもらえば良かったじゃないか」
まだ凍りついたまま身動きが取れずにいる耀輝へ向けて、舜は言った。
「あの男は、法名は捨てようとも、仏門に身を置いた人外――。首にかけている髑髏は、あの男が喰ろうた法師のもので、戒めとも言えるモノ……。私のために生きた人間を連れては来ぬ」
――餌って、人間なのか!
「ま、まあ、そうかな」
舜の一族にも、人間を襲って糧を得ている者がいるのだから、納得するのも早い。もちろん、黄帝はそんな一族の者を容赦しないし、実際に舜も、そのことが理由で一度殺されてしまったことがある。――いや、舜の名誉のために付け加えておくが、決して舜自身が人間を襲った、という訳ではない。
無論、皆様、ご存じだろうが。
「その箍を嵌められた時から、私に残された運命は、ただ一つ――。徐々に衰弱して果てるのみ……」
それは、今、その女の体に入っている舜にも、判っていることである。
だが――。
「でも、あいつは――あの男は、あんたのためにオレたちを連れて行ったじゃないか。人間は襲えなくても、あんたを助けるために――。それに、観世音菩薩のところにも、あんたを助けるために頼みに行ってくれたんだろ?」
――聞き届けてもらえなかったとはいえ。
そんな男を殺すなど……。
恐らく、観世音菩薩も、封印が解けなかったわけではなく、彼女が人を喰うことで魔力を蓄える妖魔であることを知っていたから、彼女が改悛するまで箍を外さないつもりだったに違いない。
「あの男が私のために動くのは、私が美しい女の姿を取っているからに過ぎぬ。砂の下に潜んで、おぞましい姿で獲物を待つ蟻地獄であると知っていれば、何もせぬ」
だから彼女は、もっとも美しく気高い、牡丹の花の精霊の姿を模すことにしたのだろうか。
「そんなことは……」
そうだろうか。
舜自身、白龍女公に似ていない孖龍の姿を見た時に、彼らがこんな姿になったのは自分のせいだ、と謝ってしまったではないか。
白龍女公の姿を受け継ぐことこそ、美しいことであると――。
「私とて、羽化できるものなら羽化して、この砂漠から空へと飛んで行きたかった。好きで醜い姿のまま砂の中に潜り、蟻地獄として生きていた訳ではない」
「……」
そう。彼女も他の幼虫たちと同じように、羽化して飛び立って行きたかったに違いない。それが、どうした訳か羽化できず、魔物と化すほどの長い時を、蟻地獄のままの姿で生き続けることになるなど――。
そういえば、猫にもそういうことがあると聞いたことがある。齢三十年を越えた老猫が死ぬと、猫又と言う化け物になると――。きっとその猫たちも、好きで飼い主に仇を成す化け猫などになった訳ではないだろうに。
彼女の言葉は哀し過ぎて、何も言うことが出来なかった。――いや、
「悪かった……」
「舜……」
「オレが何か意見出来るようなことじゃなかったよな」
今日は、えらく素直に、舜は言った。
顔色も悪い。
人間、死を前にすると、少しだけ優しくなれるのかも知れない。
もしかすると、この蟻地獄だって、死を前にしていたあの時は、本心から捲簾大将を思っていたのかも知れない――。
「――舜!」
熱い砂漠に横倒しになる舜を見て、デューイが傍らへと駆け寄って来た。
「なんて弱い体なんだ……。そうだよな。オレ、自分の体がどれだけ丈夫か、なんて、考えたことなかったもんな……」
「僕が、こんな箍、力づくで外して――」
「いいから、さっさと行け……」
「え?」
舜の言葉に、デューイが戸惑う。
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