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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)
十四夜 竜生九子の孖 10
しおりを挟む「ほんとにこんな処に、そんな宝があるんだろうな?」
砂の山と、砂の河、砂煙と乾いた空気に蝕まれる中、舜は忌々しげに吐き捨てた。
じきに陽が暮れるとはいえ、遮光の布以外に陰の無い砂漠では、少々の愚痴が零れるのも無理はない。
「でも、黄帝様が思い出されたんだから、間違いないだろ?」
この「黄帝が思い出した」というのが、舜には一番信用できないものなのである。
第一、タイミングよくTVのニュースを見ていて、タイミングよく舜が卵を触って、タイミングよく昔、封印した『キン・コン・カン』のことを思い出して……など、如何にも怪しい。(注:『キン・コン・カン』ではない)
陽が暮れると、砂漠の上は瞬く間に気温が下がり始めた。砂は熱を保てないため、夜になると急激に熱が奪われて行くのだ。もちろん、舜やデューイには、その方がずっと過ごしやすいのだが……。
「大体、封印を解くカギだって、信用できるかどうか――。あいつが言ってた『定心真言』を唱えた途端に、その『キン・コン・カン』が襲いかかって来るかもしれないんだぞ。うかうかと――」
舜が言いかけた時だった。
「舜! 砂が――」
そのデューイの言葉と共に、砂の一部が盛り上がり、まるで砂の底から押し出されて来るかのように、大きな人影が現れた。
恐らく、人ではないだろう。人が砂の中に潜っていられるとは思えないし、その人物から漂って来るのは、紛れもない人間の血の匂いである。
何より、彼の首を飾っているのは、九つの色褪せた髑髏)だった。
「ほう。人とは思えぬ成り立ちだが、喰ろうてみるのも一興やもしれぬ」
見た目、舜の三倍はありそうな猛々しい容姿の人物が、言った。
どうやら、首にかかっている髑髏は、彼に食われた人間たちのものらしい。
黄錦の直綴(僧衣)と、白藤の襲には似つかわしくない類のものである。
「人喰いの魔物か?」
厄介なものが出て来てしまった、と思いながらも、やっと砂以外に現れた砂漠の変化に、喜々とする。
「違うって、舜――。あの直綴からして、法師じゃないのか?」
デューイは言うが、
「人間を喰う法師なら、尚更タチが悪い」
二人が鼓膜を通じてそんなヒソヒソ話をしていると、
「生憎、人はもう喰らわぬ、と遥か昔にとある御方に誓いを立てた。故に、この首の髑髏も、あれ以来増えてはおらぬ。だが――」
そう言うと、直綴を纏った大男はニヤリと笑い、
「人外のモノを喰らわぬとは、あの時、誓いを立てはしなかった」
ということは、やはり、舜のことは喰らおうとしている訳である。
だが、力で負けるとは思えない。あちらは、小柄な舜の姿に、すっかり勝った気でいるつもりらしいが、舜には『黄帝の息子』として受け継いだ力がある。加えて、そう頼りにはしていないが、灰の姿になって、格段に重き力を得ることになったデューイもいる。
「えーと、探しものしてるんだけど、この辺りに『キン・コン・カン』って埋まってないかな?」
やはり、あの青年の遺伝子を受け継いでいるだけあって、緊張感がない。
「あの、舜……『キン・コン・カン』じゃなくて――」
そんなデューイの言葉は聞き流され、
「我は捲簾大将――。この地で知らぬことなどないが、ただで教えてやる訳にはゆかぬ」
――え? 『キン・コン・カン』で通じたのか?
と、デューイが思ったことは、この際、無視して、
「法師が見返りを要求するのか?」
ムッとした顔で、舜は言った。
「ハッ! 法名などとうの昔に捨て去ってしもうたわ」
法名があったのだから、やはり一時は神仏に仕えていたのだろう。
だが、舜はともかく、デューイには一つ引っ掛かることがあった。
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