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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 7

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 この地からは、世界四大文明の一つが生み出されたと云う。
 中国とは、カラコルム山脈を挟んで国境を接し、東にインド、西にイランとアフガニスタン――南北に細長い国である。
 その国の中央には、インダス川が流れている。
 巴基斯坦パキスタン――。
 かつて、この川の名を持つ文明が栄えた一帯も、今は砂漠となっている。
 文明が滅びた理由としては諸説あるが、一つにはこの砂漠化も言われていることである。
「夏に砂漠は無いだろ、砂漠は……」
 かつて、ガンダーラと呼ばれたこの北西部の渓谷を歩き、高い山々の雪解け水が、幾つもの滝や支流となって流れる自然美を堪能して辿り着いたのは、乾き果てた大地のみの世界であった。
 かのアレキサンダー大王は、この地に攻め入った際、あまりの美しさに魅了され、三ヶ月もの間滞在したというが、その時の場所は、この砂漠でなかったに違いない。
 土とは相性がいいが、陽光とは相いれない体質を持つ舜としては、愚痴の一つも言いたくなる。
 今日は、このパキスタンではごく普通の「サルワール・カミーズ」を身に纏い、頭にはもちろん日よけの布を被り、少しでも快適さを求めているのだが……。そのカミーズの内側では――。
「舜……。舜……っ。ビンの蓋を開けてくれないか……。暑くて……」
 蚊の鳴くような弱々しい声が、ビンを振動させて、そんな言葉を伝えて来る。
「オレの服の内側で? 冗談じゃない」
 何しろ、この青年――灰の姿の青年の好みは、舜のように美しい少年なのである。日除けのために、カミーズの内側に入れてやっているとはいえ、どさくさにまぎれて、体を撫で回されるのは、勘弁してもらいたい。
 いや、この青年、無理やりそんな真似をするような性格の持ち主ではないのだが……。
「舜……」
「冗談だよ。――ホラ」
 本当に冗談だったのかどうかは、定かではない。
 とにかく、ビンの蓋は開けてもらえ、デューイは籠る熱気から逃れることが出来たのだが――、
「……暑い」
 この砂漠では、ビンの蓋の一つや二つの違いでは、そう変わらない。
 ビンは一応、苺ジャムの空ビンから、シンプルな蓋つきのビンに昇格している。――とはいえ、苺のラベルがついているかいないかの違いだけであって、レベル的にはそう変わっていないかもしれない。
 ただ、彼らの一族は鼻がいいため、洗っても洗っても、強い苺の香料の匂うジャムのビンよりは、快適な空間であっただろう。もちろん、常人には嗅ぎとれない範囲での匂いかもしれないが。
 それに、別に蓋が付いていなくとも、デューイの灰の体は意思によってまとまっているので、その辺りにこぼれたりはしないのだが――そこは、もしものことを考えての、舜の優しい気遣いである。と、デューイは一人、信じている。
 少しさらさらと、外の空気の中にも漂い出たりして、かつてのガンダーラの地を見渡してみる。
 ペシャワルの中心部は、辺境の政治経済の中心でもあり、肥沃な大地もあり、人々は農牧畜を生業とし、豊かな生活を築いていた。
 そんな中、シルクロードや遺跡を横目に数百キロ行くと、これである。――いや、行くというか、また中国国境の方へ戻っているというか……。
 乾いた大地に申し訳程度の草木が生えているような砂漠もあれば、本当に砂だけが山と波を形成している砂漠もある。
 ここは、本当に砂しかない、点在するオアシスに都市がある、という砂漠の一端だった。
「あちっ、あちっ!」
 砂の上に下りて、すっかり同化して見えなくなったデューイが零した言葉である。
 こんな処に何があるのかというと……。


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