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八夜 火鴉(かう)の禍矢(まがつや)
八夜 火鴉の禍矢 5
しおりを挟む「ほら、にーさま、鳥だよっ。こんなに、ちっちゃい」
幼子は、手のひらに収まるほどの、小さな白い小鳥を高く掲げ、年の離れた兄に見せた。
「ん? 死んでるんじゃないのか?」
「ちがうもんっ。あったかいもん」
「んー……。じゃあ、怪我でもしてるのかな。――見せてみろ」
「はいっ」
大きな手のひらに移し替えられた小鳥は、余計に小さく見えて、愛らしかった。
「どこで見つけたんだ?」
「あっちの、どーくつ」
何故そんなところに、小鳥が迷い込んでいたのかは判らないが、幼子がその時の話を兄にすると、
「じゃあ、蝙蝠にでも襲われたのかな」
と、納得できる答えが、返って来た。
小鳥は、見た目には、傷を負ってはいなかったが、羽ばたくこともせず、元気がないように、ぐったりとしている。
「んー……。わかんないなぁ。何かの病気かなァ」
「なおる? とべるよーになる?」
動物とは相性もよく、心を通じ合わせることが出来るために、何よりそれが気掛かりだったのだ。
何も話してくれない、小鳥のことが。
「とりあえず、家に連れて帰ろう。おなかが空いているのかも知れない」
「うんっ」
結局、その小鳥は、何も食べなかったのだが、幼子は、その日、不思議な光景を見ることになった。
どうしても、その小鳥のことが心配で、ベッドに入ったものの、眠れず、ただ胸を痛めていた時のことであった。
誰もが寝静まった朝の光の中、その小鳥が、三本の足を持つ、漆黒の鴉に変化したのだ。
え――、と幼子は思わず声を上げそうになったが、その姿があまりにも美しかったため、身動きさえも出来ずに、ただ呆然と毛布の中から、見入っていた。
漆黒の鴉に変わったその鳥は、羽根に深い傷を負っていた。まるで、矢で射抜かれたかのような、残酷な傷を。
鴉は、もう酷く弱っていて、随分、長い間、傷を負ったままでいたのではないか、と思わせた。
痛々しげに羽根を広げ、嘴で、その傷の辺りを、探っている。
声をかけたかったが、そうした途端に、鴉が逃げてしまいそうな気がして、幼子は、声をかけることも出来なかった。
普通の動物なら、そんなことはあり得ないのだが、その鴉に限っては、そうなのではないか、という気がしていたのだ。
鴉はまだ、自らの傷口を、探っている。
癒そうとしているのか、ただ痛みのためにそうしているのかは、判らなかったが、その光景は、胸が詰まるほどに、痛々しかった。
助けてやりたい、と思っていた。
だが、どうすれば助けてやれるのかも、判らなかった。
胸が熱く、苦しくなり、否応もなく、涙が零れた。そして、鼻水も出て来てしまったので、幼子は、ずずず、っとその鼻を、啜り上げた。
途端に、鴉がハッとしたように、頭を上げた。
「あ――」
幼子は、その失敗に気づいて、鼻を押さえたが、もうそれは、手遅れだった。
鴉は、傷ついた羽根を大きく広げて、飛翔した。
「あ――っ。だめだっ! とんじゃだめだ! 死んじゃうじゃないか!」
幼子は、慌ててベッドから、飛び降りた。――が、鴉は、その言葉を聞く様子もなく、不自由そうに、傷ついた羽根を、動かしている。
そして、それは、起こった。
「だめだったら――! カベにぶつかる!」
部屋の中で飛び回れば、それが当然のことなのだ。
だが――。
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