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七夜 空桑(くうそう)の実
七夜 空桑の実 16
しおりを挟むもちろん、その二人なら、そんなことをしていてもおかしくはないだろう。
だが、二人で一緒に、というのは、舜には思いがけないことであった。今の今まで、炎帝と黄帝は、ずっと昔から敵同士である、と思っていたのだ。それに――。
「やっぱり、今回もあいつが絡んでるのか……」
舜は、その現実に、ぐったりとした。
何しろ、あの父親のせいで、今まで何度も酷い目に遭って来たのだから。今回も、黄帝が絡んでいるとなると、無事に済むとは、思えない。
甲冑の麗人の視線が、舜へと向いた。
「久しいのう、黄帝よ」
と、舜を見ながら、口を開く。
舜は、キョロキョロと辺りを見渡したが、黄帝の姿は見当たらない。恐らく、その麗人も、舜と黄帝を間違えているのだろう。こういうパターンも、舜にとっては、初めてでは、ない。
見た目も性格も、黄帝には似ていないが――似ていないと信じているが、体質や血の流れは、舜が一番、黄帝に近いものを持っているのだ。黄帝の言葉を借りると、舜ほど黄帝に近い存在は、滅多に生まれて来ないらしい。
そして、今までに逢った同族の者の話では、舜ほど黄帝に近い存在が生まれて来るなど、信じられないことらしい。
甲冑の麗人も、舜の外見ではなく、そういう体質や血の流れで、見分けているのだ。迷惑な話だが。
「そなたら二人が、まだ一緒に遊んでいるとは、な。とっくに、互いに関心を持たなくなって、別々の暮らしをしているかと思っていたが――。時の流れにさえ、変わらぬものもあるらしい」
甲冑の麗人が、愉しげに言った。
そんな余裕も、己の凄まじい力を誇るが所以であっただろう。
舜は、はぁ、と溜め息をつき、
「あの、あんた、勘違いしてるみたいだけど、オレは黄帝じゃなくて――」
「よせ、黄帝。そんな嘘が通用する相手でないことは、おまえも承知しているだろう」
そう言ったのは、炎帝であった。
「え?」
と、舜は戸惑ったが、それでも、炎帝が、舜を黄帝にしておきたがっていることは、理解できた。
もちろん、舜としては、黄帝の代わりに、そんなとんでもない奴に、恨みがましいことを言われるのは、ごめんである。――いや、言われるだけならいいが、それで済むとは思えない。それでも――。
「解ったよ」
と、気がついた時には、そう言っていた。
どうせ、その麗人も、すぐに、舜が黄帝でないことには気づく――といいのだが。
「――で、そいつ、誰だっけ?」
この少年……本当に、その麗人を怖がっているのだろうか。
甲冑の麗人――その正体は。
「黒帝だ。おまえと私が殺した――。いや、おまえにそそのかされて殺した、と言った方がいいか」
炎帝が言った。
「あーっ! 何て奴なんだよっ。オレに罪をなすりつけるなよ! あ、えーと、オレは黄帝じゃないけど――あ、違う。今は黄帝だけど――。とにかく、そんな昔のことを穿り返すなよっ」
穿り返されたところで、舜はその経緯を、全く、知らない。解っていることといえば、以前に黄帝と炎帝が、その甲冑の麗人を殺した、ということと、その麗人が、恐らく黄帝と炎帝に恨みを持っている、ということくらいで、それ以外は、何も知らない。
加えて、その話がいつ頃のことなのかも、見当がつかない。少なくとも、炎帝が、黄帝に封印されてしまう以前のことであったとは思えるのだが。
「あのクソおやじ……そこら中で悪いことしてるんだな……」
今はすっかりボケて、自分の人格も解らなくなっている老人とはいえ(舜見立て)、極悪非道の血も涙もない冷血漢であることは、変わっていないのだ。
第一、黄帝と炎帝がそんな仲だったなど――どんな仲だったのだろうか。それすらも、舜は知らない。
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