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六夜 鵲(チュエ)の橋
六夜 鵲の橋 24
しおりを挟むもちろん、息子の舜も、その美貌を受け継いではいるのだが……あの少年、父親を嫌っているため、飽くまでも、母親似であると、信じている。まあ、舜の母親も、系図を辿れば黄帝の血を引く遠い子孫である、というのだから、それも嘘ではないのだが。
「黄帝様……」
デューイは、安堵――というよりも、恍惚たる響きで、その名を呼んだ。
「久しぶりですねぇ、デューイさん。里帰りはどうでしたか?」
言い忘れていたが、この青年、ちょっと変わったところがある。
舜に言わせると、とてつもない変人だそうだが。あまりに長く生き過ぎて来たために、自分の人格も解らなくなっている、というのだ。
まあ、世にも麗しいその面貌で、確かに、そんな惚けた口調で、語ってほしくはないのだが。
それでも、デューイは、
「あ、はい、あの、父も母も祖母も姉たちも元気にしているようで――いえ、今、フィンランドに行っていて、まだ逢ってはいないのですが――元気そうです」
と、そんな惚けた質問にも、常に真面目に応えてしまう。
この青年も、この青年である。
まあ、デューイの場合、黄帝を神にも等しい存在として崇拝しているのだから、それも無理のないことなのだが。
「そうですか。それは良かったですねぇ」
黄帝は、相変わらずの、のんびりとした口調で、うなずいたりしている。
月さえ霞むような麗容の持ち主である、というのに、やはり、少し、変わっている。
「舜を心配して来てくださったのですか?」
デューイは訊いた。
「いえ、ちょっと退屈凌ぎに」
「は、はあ……」
もちろん、口ではどう言おうと、息子が心配だったのだと、デューイは堅く信じていた。
「このミルキー・ウェイの――天の河の伝説に、黄帝様が予言を残しておられたと、聞きました」
「おや、そうなのですか? 私は、どんな予言を残していました?」
「へ?」
覚えていない、というのだろうか、この美しい青年は。自分の息子の訪れを予期していた、あの予言を。
「あの……」
「何分、年ですからねぇ……。忘れっぽくなってしまって困ります。――ほら、私くらい長く生きていると、色々なところで、つい、色々なことを言ってしまうでしょう? その一つ一つを覚えてはいないのですよ」
「は、はあ……」
その青年が言うと、妙に納得できてしまうから、不思議である。
「うーん……。思い出せませんねぇ……」
と、腕組みしながら、本気で悩むように、考えている。
「あの、えーと、〃新たなる帝王が現れ、正しき道を定めるであろう〃というやつ――いえ、予言です」
「おや、そうなのですか。今聞いても、思い出せませんねぇ」
まあ、遥か昔のことなのだから、仕方がない……のだろうか。その惚けた口調からは、冗談とも本気とも、区別がつかない。
そして、デューイは、ハタと気がついた。黄帝は、この異空間の中に、易々と入って来ているのである。
「あの、黄帝様。ここの出入り口をご存じなのですか?」
「ええ、知っていますよ」
あっさりとした言葉である。
デューイの悩みも、一挙解決であった。
「それなら、ぼくと舜も、ここから出ることが……」
「ええ。連れ出してあげましょうか?」
この青年、何故そういうことを、最初に言わないのだろうか。普通、すぐに助けるのが、人間というものであると思えるのだが――いや、彼の場合、人間ではなかった。
デューイに言わせると神だが、舜に言わせると、悪魔であり、化け物であり、魔物であり――ということに、なる。
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