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六夜 鵲(チュエ)の橋

六夜 鵲の橋 21

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「あの、舜、ここには少年たちはいなかったと……」
 地下の通路を歩く中、少し遠慮がちに、デューイが言った。
 何しろ、すぐにヘソを曲げてしまう少年のことである。
「オレは、消えた少年を捜すために、ここへ来た訳じゃないぜ」
「え?」
「言っただろ。鵲を探しに来たんだよ。あの時、こんな地下に、なんで鳥の匂いがするんだろう、って思ってたんだ」
「そういえば……」
『夜の一族』は、もともと動物とは相性がいいともあって、そういう匂いにも敏感なのだ。
 しかし、普段、考えもなく奔放に生きているように思えるこの少年、結構……。
「この辺りだったな」
 明かり一つない暗闇を見渡し、舜は言った。 舜が捨てられていた場所である。
 道に迷わない、というのも、『夜の一族』の特技の一つである。
 バサ、っと頭上で、羽ばたきが、した。
「動くな」
 シャ、っと白い光が、頭上に伸びた。
 爪である。
 舜の爪は、瞬時に音の方向へと鋭く伸び、鵲の喉元、数ミリのところで、ピタリ、と止まった。
 刃物の如き美しい爪が、鵲の動きを、そこで、封じる。
「……私を殺せるのなら、殺しなさい。少年たちが戻らなくてもいいのなら」
 巣の縁に留まる、鵲が言った。
「うわああっ、鳥が喋ったっ!」
 は、デューイである。
「……こいつを異空間に捨てて来てやりたい」
 は、舜。
 まあ、その気持ちも解らないではない。今は、そんなことで驚くような次元のことではないはずなのだ。
「……あなたが、黄帝様の残された予言の帝王だったのですね、舜の名を持つ、年若き少年」
「え?」
 舜は、その鵲の言葉に、顔を上げた。
「黄帝の予言、って……」
「遥か昔、天帝様の怒りによって、織女様が異空間に閉じ込められてしまった時、黄帝様が、そう言い残されたのです。新たなる帝王が現れ、正しき道を定めるであろう、と……」
「正しき道……」
 舜が、それを定める者である、というのだろうか。
 黄帝が、遥か昔に残した、予言の帝王が舜である、と。
 確かに、舜という名は、古代伝説中の理想の帝王の名前ではあるが、舜は帝王でも何でもなく、ただの可愛い少年なのだ。
「あのホケおやじ……一体、いつの時代から生きてるんだよ……」
 舜の的外れな言葉も、この場では、致し方ないことであっただろう。
「さあ、殺しなさい」
 鵲が言った。
「殺しなさい、って言われても、あんたを殺したら、連れ去られた少年たちも、戻って来ないんだろーが」
「生かしておいても同じこと――。私は、異空間の場所を、喋る積もりなどないのですから」
「チャイナ・タウンのじいさんたちは?」
「彼らは何も知りません。私一人では、少年たちを集めるのに、手間と時間がかかり過ぎるため、彼らを利用していただけのことです」
「太古の力と引き換えに?」
「……人は、いつの時代も、力というものを望みます。強き者も、弱き者も――。もちろん、私が彼らに与えられるものといえば、太古の力の片鱗にも及ばない小さなものですが、それでも人の子には、大いなる力となるものでしょう」
「つまり、異空間の場所を知ってるのは、あんただけ、ということか」
「そうなります」
 こういう冷静な相手が、舜は一番、苦手である。あの父親と同じように。


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