159 / 533
六夜 鵲(チュエ)の橋
六夜 鵲の橋 21
しおりを挟む「あの、舜、ここには少年たちはいなかったと……」
地下の通路を歩く中、少し遠慮がちに、デューイが言った。
何しろ、すぐにヘソを曲げてしまう少年のことである。
「オレは、消えた少年を捜すために、ここへ来た訳じゃないぜ」
「え?」
「言っただろ。鵲を探しに来たんだよ。あの時、こんな地下に、なんで鳥の匂いがするんだろう、って思ってたんだ」
「そういえば……」
『夜の一族』は、もともと動物とは相性がいいともあって、そういう匂いにも敏感なのだ。
しかし、普段、考えもなく奔放に生きているように思えるこの少年、結構……。
「この辺りだったな」
明かり一つない暗闇を見渡し、舜は言った。 舜が捨てられていた場所である。
道に迷わない、というのも、『夜の一族』の特技の一つである。
バサ、っと頭上で、羽ばたきが、した。
「動くな」
シャ、っと白い光が、頭上に伸びた。
爪である。
舜の爪は、瞬時に音の方向へと鋭く伸び、鵲の喉元、数ミリのところで、ピタリ、と止まった。
刃物の如き美しい爪が、鵲の動きを、そこで、封じる。
「……私を殺せるのなら、殺しなさい。少年たちが戻らなくてもいいのなら」
巣の縁に留まる、鵲が言った。
「うわああっ、鳥が喋ったっ!」
は、デューイである。
「……こいつを異空間に捨てて来てやりたい」
は、舜。
まあ、その気持ちも解らないではない。今は、そんなことで驚くような次元のことではないはずなのだ。
「……あなたが、黄帝様の残された予言の帝王だったのですね、舜の名を持つ、年若き少年」
「え?」
舜は、その鵲の言葉に、顔を上げた。
「黄帝の予言、って……」
「遥か昔、天帝様の怒りによって、織女様が異空間に閉じ込められてしまった時、黄帝様が、そう言い残されたのです。新たなる帝王が現れ、正しき道を定めるであろう、と……」
「正しき道……」
舜が、それを定める者である、というのだろうか。
黄帝が、遥か昔に残した、予言の帝王が舜である、と。
確かに、舜という名は、古代伝説中の理想の帝王の名前ではあるが、舜は帝王でも何でもなく、ただの可愛い少年なのだ。
「あのホケおやじ……一体、いつの時代から生きてるんだよ……」
舜の的外れな言葉も、この場では、致し方ないことであっただろう。
「さあ、殺しなさい」
鵲が言った。
「殺しなさい、って言われても、あんたを殺したら、連れ去られた少年たちも、戻って来ないんだろーが」
「生かしておいても同じこと――。私は、異空間の場所を、喋る積もりなどないのですから」
「チャイナ・タウンのじいさんたちは?」
「彼らは何も知りません。私一人では、少年たちを集めるのに、手間と時間がかかり過ぎるため、彼らを利用していただけのことです」
「太古の力と引き換えに?」
「……人は、いつの時代も、力というものを望みます。強き者も、弱き者も――。もちろん、私が彼らに与えられるものといえば、太古の力の片鱗にも及ばない小さなものですが、それでも人の子には、大いなる力となるものでしょう」
「つまり、異空間の場所を知ってるのは、あんただけ、ということか」
「そうなります」
こういう冷静な相手が、舜は一番、苦手である。あの父親と同じように。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる