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六夜 鵲(チュエ)の橋
六夜 鵲の橋 15
しおりを挟むデューイが向かっている場所は、地下であった。かなり老朽化した建造物の細い階段を降り、じめじめとした空気の中を、突き進んで行く。
「待、待ってくださいっ、ミスター.マクレー――。暗くて前が――」
小鋭は、壁に手を這わせながら、暗闇の中で声を上げた。
常人には、一寸先も見えない闇なのだ。
「あ、じゃあ、ぼくにつかまってください」
夜目の利くデューイは、不自由もない。
小鋭に腕を貸して、先を急ぐ。
くすんだコンクリート壁も、積み上げられた木箱も、クモの巣の一本さえ、よく見える。
「ここはどこなんですか?」
匂いを辿って歩く中、デューイは訊いた。
「職業斡旋所のはずですが……」
どう見ても、その斡旋所の広さ以上は、歩いている。
「職業斡旋所なら、中国から出て来たばかりの仕事のない人が、一番に訪れますよね?」
「え、あ、ええ。静も仕事を探して、ここへ――」
そこまで言い、小鋭は、ハッ、と気づいたように、言葉を止めた。
「まさか、ここで、警察へは行けない人間のことを調べて……」
「だとすると、それは人間の仕事ですよ。――でも、舜を攫ったのは、人間じゃない。第一、舜はこんなところになんて、来ていませんから」
「……どういうことですか?」
「さあ、それはまだ」
忘れていたが、この青年、頭がいいことはいいのである。色々なことを知っているし、舜も過去に、デューイの知識で、先が視えたことが、何度かある。
斡旋所の内部は、壁の一部が隠し戸になり、地下通路へと繋がっていた。一人なら、通る気にもならないような、薄気味の悪い場所である。
だが、舜のことしか頭にないデューイには、そんなことも関係ない。
通路も一本ではなく、迷路のように入り組み、あちこちに曲がっていたが、迷うことはあり得なかった。
そして、通路の先に、その姿が見えた。
「舜!」
壁に凭れかかるようにして座り込む舜の姿を見つけ、デューイは、他の全てを忘れて、駆け出した。
もちろん、小鋭のことも忘れていたので、デューイの腕をつかんでいた小鋭は、その突然の疾走に、
「うわっ」
と前のめりに、つんのめった。
幸い、転ぶことはなかったのだが。
「大丈夫か、舜? 舜!」
デューイは、そんなことも気に留めていない様子で、舜の傍らに身を屈め、その肩を強く揺さぶった。
「……うるさい奴」
「え?」
「もう気がついんだから、手を放せよ。男に触られるのが一番、厭なんだ。その手で毎日、何を握ってるのか、ちゃんと解ってるんだからな」
舜は言った。
相変わらず、態度のデカイ少年である。
まあ、デューイの方も、愛情の差、というものがあるので、
「あ、ああ、ごめん」
と、パッ、と怒りもせずに、手を放す。
健気な青年である。
さっきは少し見直すほどに、格好が良かった、というのに、これではやはり……情けない。
「一体どうして、こんなところに……」
デューイは訊いた。
「オレに訊くなよ、オレに。オレは、ここが何処なのかも知らないんだぜ。――河の底じゃないみたいだけど」
「河の底?」
デューイが問い返した時、であった。
「ミスター.マクレー? どこですか、ミスター.マクレー?」
と、小鋭の声が、耳に届いた。
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