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六夜 鵲(チュエ)の橋

六夜 鵲の橋 10

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「あの、ぼくは……」
「お願いします。どうしても静を助けたいのです。あの子は、血縁と言っても、本当に遠い血ですが、この私を頼ってサンフランシスコに来た子供で、私には、あの子を守ってやらなくてはならない義務があるのです」
「は、はあ……」
 もちろん、デューイとしても、何とかしてあげたいのは山々で、舜の行方も掴みたいのだが、さっきも言ったように、デューイは術師でも何でもないのである。
 もちろん、それをはっきりと言ってもいい訳だが、なら、さっきの催眠術は何だったんだ、と訊き返されると、応えようがない。まさか、ぼくは吸血鬼なので、とも、言えないではないか。
 それに、まだ、舜が消えた、ということも、現実として理解できていなかったために、小鋭ほどの焦りもなかったのだ。
 デューイにしてみれば、舜のことだから、こかその辺りをブラついているだけで、そ
の内、ひょっこりと戻って来る、という思いがあったのだ。
 それはそうだろう。少し目を離した隙に、神隠しの如く消えてしまうなど、信じられるはずもない。
 一カ月にも渡って、次々に消えて行く少年たちを見ていた、というのなら、話は別だが。
「お願いします、ミスター……」
「あ、デューイです。デューイ・マクレー」
「ミスター.マクレー。私の力では、もうどうにもならないのです。このまま、少年たちが消えて行くのを、黙って見ているしか……」
 そんなことを言われても、デューイにはどうもしてあげられない。デューイの方が、どうにかしてもらいたいくらいである。
 舜や黄帝なら、何とか出来るのかも知れないが、当の舜は姿を消し、黄帝は、海を越えた中国の山奥である。
 それに――。
「あの、ぼく、この辺りを一通り、探して来ます。まだ舜が消えたと決まった訳でもないし、どこかで迷子になっているだけかも知れませんから――。それに、舜の方が、こういうことには向いていると思いますから」
 あの少年が、素直に力を貸してくれるかどうかは疑問だが、今は、取り敢えず、舜を探すことが先決である。
「……解りました。私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「あ、ええ、もちろん」
 かくして、二人は、夜のシスコを、宛もなく捜し回ることになったのである……。



 この街は、坂の街である。
 街中が坂である、と言っても、過言ではない。
 人々は、ただ黙々と前かがみに歩き、古いものと、新しいものの間を、通り抜ける。
 ヴィクトリア調の白く美しい街並みや、古い建物の背後に聳える、近代的なビル群、人々が名物と持て囃す、ケーブルカー――その、チンチン、という鐘の音が、聴こえて来る。
 海から生まれた霧は、街から丘へ、そして、また海へと、戻って行く。
 この霧も、また、シスコの名物である。
 そんな霧の流れる夜は、吸血鬼が現れても、不思議ではない。――いや、吸血鬼はもう、現れている。
 午前三時――。
 街中――店の中まで捜しても、舜の姿は、見つからなかった。
 そして、デューイもやっと、現実を見つめ、真っ蒼になったのである。
 元々、顔は蒼白いのだが。
「ど……どうしよう……。舜がいないなんて……」
 と、もうパニック状態で、呟きを落とす。
 喉の渇きも忘れてしまうほどの、衝撃である。
 舜を連れ去ることが出来る人間などいないことは判っているが、相手が人間でないのだとすれば、そんなことも可能なのかも知れないのだ。
 それに、連れ去られた舜が、今頃、どれほど心細い思いをしているか――いや、あの少年に限って、そんなことはないのだが――デューイはそう思っているのである。
 そして、そう思っているデューイの方が、余程、心細そうである。
「実は、さっき、あなたにお話ししていないことがあったのです。まだ、あなたを全て、信用する訳には参りませんでしたので」
 小鋭が言った。


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