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五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)

五夜 木乃伊の洞窟 12

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「舜……」
 と、デューイが複雑な面持ちで、馬を寄せる。
「あれは、どう見てもシスコンだな」
 自分もマザコンのクセに、他人のことは言うのである。
 途端に月明かりが差し込み、森の雰囲気が大きく変わった。言うなれば奥行きが出て、遠くまで気配が探れるようになった、というところか。
「あ、晴れた」
 天空を見上げて、舜は言った。
 ほぼ丸い月が、雲の切れ目から覗いている。
「どうするつもりなんだ、舜?」
 そう言ったのは、デューイである。
「まず、ここが何処なのか確かめて、城に戻るさ」
「え?」
「ずっと別の場所を歩かされてたから、ここが何処なのか、見当もつかない」
 厳しい面貌で、舜は言った。
「だけど、ここは城の周囲の森で――」
「あの森には、あんたの嫌いな狼が一杯いただろ。ここには一匹もいやしない」
「そういえば……」
 今ごろ気づいたようである。
「幸せな奴……」




 かくして二人は、見も知らぬ森の中を歩き回ることになった訳である。――いや、なるだろうと思っていたのだが。
「何だ、これは……」
 森は、あっと言う間に切れ目を見せ、目の前には、高い塀を張り巡らせる、かなりの規模を持つであろうと思える建造物が広がっていた。――いや、ここからは、塀のすぐそばの建物しか見えないが、その奥にも建物があるらしいことが窺い知れる。
「人間の匂いがするな」
 舜は言った。
「街に出たんじゃ……」
「案外、そうかも知れないな」
 どんなに不思議なことでも否定しないことが、普通の人間とは違った部分でも、ある。 まあ、どこかで、こういう事態になるかも知れない、と予測していたこともあるのだが。
「それより、早く城へ戻らないと――」
 と、目の前の塀に興味も示さず、デューイが言うと、
「何、馬鹿なことを言ってるんだよ」
「へ?」
「せっかく街に出て、黄帝もいない、ってのに、遊んでおかなきゃ損じゃないか」
 大真面目な顔で、舜は言った。
「でも、黄帝様が心配を……」
「ハッ。あいつが心配なんかする訳がないだろ。もしもの時は、森で迷った、って言えばいいんだ」
 結局、父親が怖いのである。
「そんな嘘は、ぼくにはとても――」
「なら、森で迷って、ここに出た原因を調べる――。それならいいだろ? あいつだって、よく見て、よく聞け、って言ったんだからな。子供は、親のいうことを利かなきゃならないんだ」
 そういう都合のいい解釈は……何とも逞しい。
「ほら、行くぜ」
 この少年、ひょんなことで街に出られて、喜々としている。
 できれば、水を差したくはないのだが、まだ、ここが街だと決まった訳では、ない。たとえ、多くの人間の匂いがする、としても。
 二人は取り敢えず、塀に切り取られた門を潜り、石畳の坂を上り始めた。
 両側を塀で挟まれるようになっている道である。丘なのか、少し進むと内側の塀が徐々に低くなって消え、丘の上に出たことを、二人に告げた。
「鐘楼だ……」
 坂を上り切って、右手に進む道の正面に聳える、高さ三〇メートルほどの建造物を見て、舜は言った。
 あの森で聴こえた鐘の音のことも、思い出していた。あの時、聴こえた鐘の音が、この鐘楼のものであったのかどうかは定かではないが、もしそうだとすれば、あの二人は――もしくは、どちらか一人は、舜とデューイを、ここへ来させたかった、ということになる。
 そして、いいタイミングでリジアを引っ張って帰ったのは、イリアである。
 だが、何故――。


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