119 / 533
五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)
五夜 木乃伊の洞窟 12
しおりを挟む「舜……」
と、デューイが複雑な面持ちで、馬を寄せる。
「あれは、どう見てもシスコンだな」
自分もマザコンのクセに、他人のことは言うのである。
途端に月明かりが差し込み、森の雰囲気が大きく変わった。言うなれば奥行きが出て、遠くまで気配が探れるようになった、というところか。
「あ、晴れた」
天空を見上げて、舜は言った。
ほぼ丸い月が、雲の切れ目から覗いている。
「どうするつもりなんだ、舜?」
そう言ったのは、デューイである。
「まず、ここが何処なのか確かめて、城に戻るさ」
「え?」
「ずっと別の場所を歩かされてたから、ここが何処なのか、見当もつかない」
厳しい面貌で、舜は言った。
「だけど、ここは城の周囲の森で――」
「あの森には、あんたの嫌いな狼が一杯いただろ。ここには一匹もいやしない」
「そういえば……」
今ごろ気づいたようである。
「幸せな奴……」
かくして二人は、見も知らぬ森の中を歩き回ることになった訳である。――いや、なるだろうと思っていたのだが。
「何だ、これは……」
森は、あっと言う間に切れ目を見せ、目の前には、高い塀を張り巡らせる、かなりの規模を持つであろうと思える建造物が広がっていた。――いや、ここからは、塀のすぐそばの建物しか見えないが、その奥にも建物があるらしいことが窺い知れる。
「人間の匂いがするな」
舜は言った。
「街に出たんじゃ……」
「案外、そうかも知れないな」
どんなに不思議なことでも否定しないことが、普通の人間とは違った部分でも、ある。 まあ、どこかで、こういう事態になるかも知れない、と予測していたこともあるのだが。
「それより、早く城へ戻らないと――」
と、目の前の塀に興味も示さず、デューイが言うと、
「何、馬鹿なことを言ってるんだよ」
「へ?」
「せっかく街に出て、黄帝もいない、ってのに、遊んでおかなきゃ損じゃないか」
大真面目な顔で、舜は言った。
「でも、黄帝様が心配を……」
「ハッ。あいつが心配なんかする訳がないだろ。もしもの時は、森で迷った、って言えばいいんだ」
結局、父親が怖いのである。
「そんな嘘は、ぼくにはとても――」
「なら、森で迷って、ここに出た原因を調べる――。それならいいだろ? あいつだって、よく見て、よく聞け、って言ったんだからな。子供は、親のいうことを利かなきゃならないんだ」
そういう都合のいい解釈は……何とも逞しい。
「ほら、行くぜ」
この少年、ひょんなことで街に出られて、喜々としている。
できれば、水を差したくはないのだが、まだ、ここが街だと決まった訳では、ない。たとえ、多くの人間の匂いがする、としても。
二人は取り敢えず、塀に切り取られた門を潜り、石畳の坂を上り始めた。
両側を塀で挟まれるようになっている道である。丘なのか、少し進むと内側の塀が徐々に低くなって消え、丘の上に出たことを、二人に告げた。
「鐘楼だ……」
坂を上り切って、右手に進む道の正面に聳える、高さ三〇メートルほどの建造物を見て、舜は言った。
あの森で聴こえた鐘の音のことも、思い出していた。あの時、聴こえた鐘の音が、この鐘楼のものであったのかどうかは定かではないが、もしそうだとすれば、あの二人は――もしくは、どちらか一人は、舜とデューイを、ここへ来させたかった、ということになる。
そして、いいタイミングでリジアを引っ張って帰ったのは、イリアである。
だが、何故――。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる