106 / 533
四夜 燭陰(しょくいん)の玉(ぎょく)
四夜 燭陰の玉 17
しおりを挟む「来るぞ、黄帝」
「ああ」
数多の光の結晶が、蒼白き魔物へと、襲い掛かる。
黄土の砂塵が光を弾き、五頭の火龍が、守護者を喰らう。
「がっ!」
また一人、守護者が炎を喰らって、灰と化した。
この光の中でも屈せぬ、というのか、その二人の魔物は。
ポタポタと落ちる血の滴が、岩石を赤く染めている。
荒い呼吸が、その体の苦痛を、告げている。
急激な血液の喪失のために、体が酸素を得られなくなっているのだ。
人間は普通、体内の三分の一の血液を失うと死ぬ、と言われているが、彼らの血は、すでにそのくらいは流れている。
しかも、光で受けたその傷を、癒すことも出来ずに戦っているのだ。
果たしてそれは、守護者たちとの戦い、なのであろうか。
それとも、彼ら二人の戦い――。
「後ろだ、黄帝!」
「ぐぅ!」
光の刃が、黄帝の背を、深く穿った。
砂塵が、わずかな揺らぎを、見せる。
「今だ!」
「させるか!」
ゴオオオオ――っ、と炎が、火柱を作った。
大地が揺れ、周囲の岩石に亀裂が走る。
恐らく、それは、地上世界にも影響を及ぼすものであっただろう。
途端に、赤い血が岩から、滲み出した。
地中を流れる、岩漿である。
守護者たちが、その岩漿を避けて、飛翔した。
光に隠れる火道への路に翻り、一気に火道を上昇する。
二人もまた、彼らを追った。
黄帝の背に、蝙蝠のような黒翼が閃き、炎帝の手をつかんで、飛翔する。
守護者たちの後を追い、数千キロの火道を、突き進む。
炎帝が、迫り来るマグマに、繊手を向けた。
「はあっ!」
と、気合と共に、炎気を放ち、赤きマグマを爆発させる。
音さえ音としては聞こえない爆音の中、凄まじい爆風が炸裂した。
二人の飛翔に加速がつき、瞬く間に地上へと、躍り出る。
「出た」
地上はまだ、明け方を遠く見る夜、であった。
二人の赤き双眸がさらに輝き、血の流出が、刹那に止まる。
「傷は癒えぬか」
血は止まったものの、二人の傷は、闇が支配する世界に出ても、まだ光の名残を留めていた。
「愚かな魔物よ。我々を地上に燻り出し、勝機を掴んだ積もりであろうが、そうはいかぬ!」
守護者の内、輝く髪を持つ一人が、高く言った。
黒き髪でありながら、それは確かに、輝いていたのだ。
太陽の名を冠する帝王、ラ・ムー。
「太陽よ、闇を退け、光を掲げよ!」
パァ、と白い光が、砕け散った。
熔岩の中の玉が閃光を発し、暗い夜を、退ける。
「く……っ!」
瞬く間に昼と化したその世界で、夜の魔物は、呻きを上げた。
赤眼を細め、焼け付く肌に、身を捩る。
その玉――日夜四季を司る《燭陰の玉》の力である。
やはり、勝ち目はないのか、彼らには。 夜の中でしか、生きることを許されていない、魔物には。
黄帝の黒翼が、灰と化して焼け崩れ、二人は地上に落下した。
上空一五〇〇メートルからの、落下である。
大地を揺るがす爆音に、火山が、オレンジ色の火柱を、噴いた。
立ち昇る噴煙柱に雷鳴が轟き、瞬く間に天を、貫き通す。
飛び散った巨石や灰砂が、容赦なく町を襲い始める。
地面に叩きつけられた黄帝と炎帝の上にも、その猛威は降りかかった。
動くことも出来ないままに、巨石と熔岩に飲み込まれ、麗しき二人の魔物は、火の川の下に姿を消した。
「『夜の一族』の身で、《太陽》を手に入れようなど、愚かなことを――。ムーは沈まぬ。太陽の恵みがある限り、栄え続け、生き続ける。壊滅したこの町も、また灰の中から、人々が復興させて行くだろう」
輝かしきラ・ムーのその言葉に、守護者たちは、魔物たちの最後を、見送った。
いくら死に切れぬ民とはいえ、上空一五〇〇メートルから落下し、巨石と熔岩に飲まれては、助かることなど不可能だろう。
しかし、彼らは――守護者たちは気づいているだろうか。
地上三〇キロメートル以上にも立ち昇った黒く厚い噴煙が、数百キロも――或いは、数千キロも風に流され、大地に暗い影を落としていることに。
太陽の光を瞬く間に遮り、昼なお暗い都市を作り上げていることに。
火山の噴火の後には、夜のような闇が付き物なのだ。
二人の魔物は、その現象を計算して、火山を爆発させたのではないのか。
なら、彼らは――。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる