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三夜 煬帝(ようだい)の柩
三夜 煬帝の柩 21
しおりを挟む「あの、舜、昨日は――」
「一度しか言わないからよく聞けよ。《聚首歓宴の盃》を扱い切れずに、危ない目に遭わせて悪かったな」
この少年、謝る時まで、態度がデカイ。それでも、バツ悪そうにしていれば可愛げがあるのだが、睨みまで利かしているから、ちょっと怖い。
それでも、デューイは、ぽかん、と惚けた面で口を開き、その言葉の理解に努めていた。
何しろ、黄帝がいないところで、舜がデューイに謝ってくれたことなど、ただの一度もないのである。おまけに、今回のそのことに関しては、舜に責任があるなど、デューイは思ってもいなかったのだ。
そして、それは、それだけで幸せになれる言葉でも、あった。
「ひょっとして、昨日はそれを言うために、ぼくのところへ?」
「濡れ場を覗きに行ったとでも思ってたのか?」
この少年、いつも、一言多い。耳年増所以の遠慮のなさである。
そして、デューイにはやぶへびとしか言えない言葉であった。
「あ、いや、その……っ」
「オレは本来、素直でいい子なんだ」
自慢げに胸を張って、舜は言った。
自分で言っていれば、世話がない。
もちろん、その言葉が、昨日、舜が母親に言ってもらった言葉である、ということは、デューイには知りようもないことであったが。
母親の言うことは何でも素直に聞いてしまう少年であるから、今日も立ちたくもないのに、デューイの夢枕に立った訳である。
「あの、舜――。この間、炎帝っていう、とんでもない妖気を纏った〃同族〃が、ぼくのところに来たんだけど、君は彼と戦う積もりをしているのか?」
並々ならぬ不安を訴えるように、デューイは訊いた。
「そーだよ」
舜は軽い口調で、うなずいた。
勝つ気でいる、というのだろうか、彼は、あの凄まじい力を持つ黒き麗人に。
「気を悪くしないでほしいんだけど、今の君の力と、あの人の力では、差があり過ぎるような気が……」
控え目な口調で、デューイは言った。
吸血鬼になって半年のデューイでさえ、舜の力と炎帝の力が違い過ぎていることは、容易に知り得るのだ。デューイに適わないことはもちろん、今の舜にも到底、適わないことは、目に見えている。
「そんなこと、あんたに言われるでもなく判ってるさ」
「それなら――っ」
「オレには、取って置きの秘密兵器があるんだ」
舜は、デーン、と胸を張って、偉そうに言った。
この少年、あの銀髪の青年の息子であるだけに、そういう台詞がハッタリに聞こえないから、始末が悪い。
「……秘密兵器?」
「ああ」
賢明な読者の方々なら、もうこの辺りで気づいておられるだろう。――そう。舜の言う秘密兵器、とは――。
「《聚首歓宴の盃》にあいつの血を吸わせて、ミイラにしてから、心臓に杭を打ち込んでやるんだ」
やっぱり。
この少年の考えそうなことである。
確かに、《聚首歓宴の盃》は、血を求めて人を襲い、その血を吸い尽くして、主に絶えることのない血を与えてくれる、という曰くつきの盃であるから、それもあながち悪い考えではないだろう。炎帝がその盃を欲しているのも、絶えることのない血を、いつでも好きなだけ得ることが出来る、という、『一族』の者にとっては夢のような利点があるためであり、盃を餌にすれば、炎帝も必ず姿を見せるに違いないのだ。
だが、当の舜がその盃を扱い切れないのでは、話にならない。加えて、炎帝が、黄帝と同じく、その盃を易々と扱い切れる、ということも有り得る。そうなれば、盃を奪われる可能性もある訳で、もし、炎帝に《聚首歓宴の盃》を奪われたりしたら、世界中に血を抜き取られた死体が溢れ返ることになる。
欠陥だらけの秘密兵器なのだ。
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