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三夜 煬帝(ようだい)の柩

三夜 煬帝の柩 6

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 デューイは一旦、舜の体をベッドに運び、それから折れてしまった足を拾い、舜の体に繋ぎ合わせた。
 もちろん、くっつきは、しない。
「ごめん、舜……」
 デューイに出来ること、といえば、そう言って謝るくらいのことである。
 わざとやった訳ではないのだから、あの少年も許してくれる――といいのだが……。
 黄帝が戻って来たのは、それから一時間ほど経ってからのことであった。
 もちろん、デューイは、舜の足を折ってしまったことを、正直に話した。その美しい青年に嘘をつける者など、誰もいないのである。舜なら――。いや、死んだ者の悪口を言うのはやめよう。
「ああ、足くらい構いませんよ。私も舜くんが小さい頃、全身に大ヤケドを負わせたことがありますから」
 何喰わぬ顔でそう言ったのは、もちろん、黄帝である。
 黄帝の話しによると、小さい頃の舜を、少しでも水に慣れさせてやろう、と思って風呂に入れてやろうとしたところ、舜があまりに暴れるものだから、つい、うっかり、湯船の中に落としてしまった、という。
 聞いたことはないだろうか。吸血鬼が流れる水を嫌う、という話を。
 もちろん、湯船の中の水は流れていない訳だが、その頃の舜は、まだ本当に幼い子供であったのだ。
 ちなみに、今でも(死んでしまったが)舜はあまり風呂が好きではない。それはデューイも同じで、体が汚れてしまった時以外、風呂に入ることは、まずしない。
 これは、デューイが『夜の一族』になってから知ったことなのだが、吸血鬼の体は、垢が溜まったりすることがないのである。
「あの、黄帝様……」
「はい、何ですか、デューイさん」
 飽くまでも、客人の立場たるデューイには好意的なのである、この青年。
 もちろん、舜にも暴力を使ったりすることはないのだが、言葉の端々には、常に厭味が含まれている。
「舜を……彼を助ける方法はありませんか?」
 すがるような瞳で、デューイは訊いた。
 黄帝なら、そんな方法を知っていても、不思議ではないのだ。
 だが、そんな方法を知っていれば、親たる黄帝が、一番にそれを試みているのではないだろうか。
「もちろん、ありますよ」
 あまりにもあっさりと、黄帝は言った。
 その方法を知りながら、彼は、棺桶屋に舜の柩を頼みに行った、というのか。
「へ……?」
 こうなると、デューイもポカンと口を開くしか、ない。
「私たちは、死に切れない血を持つ『一族』ですし、不死身ではありませんが、舜くんや私の場合、ミイラになったくらいのことでは、永遠の眠りにはつけないのですよ」
 それが、『夜の一族』の――或いは、その二人に限られた宿命なのだ。渇きと飢えにさいなまれながらも、彼らは決して、安らかに眠ることを許されてはいない。
 だから、彼らは不死身ではなく、死に切れない者、と呼ばれているのだ。この二つの言葉は、似ているようで、大きく違う。
「どうすれば――っ。どうすれば舜を助けることが出来るんですか? ぼくの命が必要なら――」
「まあ落ち着いてください、デューイさん」
 この青年には、少しくらい慌ててもらいたい。自分の息子のことなのである。
「確かに方法はありますが、私は舜くんを生き返らせる積もりはありませんし、今のあなたには、とても辛いことだと思いますよ」
「どんなことでもやります! ですから――っ」
「んー……。困りましたねぇ。私はもう彼を見捨ててしまおうと思っていましたから……」
 などと言いながら、またのんびりと腕など組んでいる。言葉とは裏腹、一向に、困ってなどいない様子である。少なくとも、見た限りでは。
「お願いします、黄帝様……。舜を生き返らせる方法を教えてください」
 デューイは諦めることなく、頭を下げた。
 親たる黄帝が助けようとしないのだから、よほど難しい方法であるのかも知れない、とは思っていたが、方法がある、と知った今、それを試さず諦めることなど出来なかったのだ。
「うーん……。あなたの気持ちも解らないではないのですがねぇ。舜くんは、私の後継者には向いていないのではないか、と思うのですよ。あなたにも色々と迷惑をかけますし――」
「彼は十六、七歳の子供です! その彼の行動を迷惑だと思ったことはありません。――お願いします、黄帝様……」
「そうですねぇ……。では、こういうのはどうでしょう。あなたに出来なかった時は、舜くんを諦める、ということで」
「必ず助けます!」
 デューイの方は、すっかり熱くなっている。
「では、期限は無期限にしておきますから、やめたくなったら、いつでも言ってください」
 そう言って、黄帝は、舜を助ける方法を、相変わらずの、のんびりとした口調で、話し始めたのであった……。



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