上 下
257 / 350
Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔

黒魔術の可不可―悪魔 23

しおりを挟む


《西洋文化の集い》が開かれている新興住宅街の一角、由利望の家に到着すると、春名は車を降りて、静かな明かりの灯る窓を見上げた。
 もう他人の家を訪ねる時間ではないが、未成年を迎えに来たという名目があれば許されるだろう。仁のように、悪いことが起こる予感を感じることが出来ればいいのだが。――いや、そんなことを感じるようになっては、いつ何が起こるのか不安で不安で、心の休まる暇もないだろう。仁のように――。
 春名は門柱にあるインターホンを押した。
 少し待ったが、応答はない。
 さすがに黙って入るわけにもいかないので、もう一度インターホンを鳴らしてみて、何の応答もないことを確かめてから、今度は通りを回り込んで、家の裏側に行ってみる。
 正面からは見えなかった屋根裏部屋らしき小さな窓に、明かりが灯っているのが見て取れた。
 ――あそこだろうか。
 屋根裏部屋までは、インターホンの呼び出し音が届かなかったのかも知れない。もう少し鳴らし続けてみるか、それとも……。
 考えていると、隣の家の勝手口が開き、そこからゴミ袋を持った人物が姿を見せた。
 この新興住宅街では、鴉や猫などにゴミを荒らされないように、頑丈なフタ付きのゴミ捨て場が設置されているため、前夜からゴミを出してもいいことになっているのだ。
 そして、出て来た人物は、静谷章吾の妻、夕子だった。
 夕子はすぐに春名に気付いたようで、あっ、という顔をすると、
「春名先生……。ご無沙汰しています」
 と、軽く頭を下げて、目を伏せた。勝手に診察に来なくなってしまったことを、後ろめたく思っているのだろう。そして、すぐにそれに気付いたのか、
「――どうされたんですか、こんな時間に?」
 と、ゴミのことも忘れた様子で訊いて来る。
「いえ――」
 何でもありません、知人がこの辺りにいるもので――と言おうとして、春名はやめた。こうして取り繕っている間にも、由利の家で何かが起こっているかも知れないのだ。
「実は、弟が由利さんのお宅にお邪魔していて、迎えに来たのですが誰も出て来られないので、こうして裏の方に……」
 隣家のことなのだから、何か不審な声や物音などを聞いているかも知れない。それとも、春名の身内(ということにしてしまった仁)が、なぜ由利の家にいるのか、ということに疑問を持つだろうか。
「週末はいつもおられるんですけどねぇ……」
 夕子はそう言って由利の家を見上げると、
「あ、ほら、屋根裏部屋じゃないですか? あそこにいるとインターホンも聞こえないみたいですから」
 以前にもそういうことがあったのか、すぐに答えが返って来る。
 だが、それは春名も察していたことで、新しい事実が判明した訳でも何でもない。ただ、第三者の同意が得られただけである。
 それに……。春名が由利と関わっていることに、何の疑問も持たないのだろうか。
「ご主人はどうですか?」
 春名は、待っていても話題に上がらないであろう、静谷章吾の近況を口にした。もちろん、夕子にしても、その話題が春名の口から零れることに、あらかじめ構えを取っていただろう。
「おかげさまで、最近は落ちついています。お隣のことも口にしなくなりましたし、仕事も変わったので」
「仕事を?」
 小さな子供がいるというのに、随分、思い切ったことをしたものだ。しかも、あの精神状態で――。このご時世、次の職がすぐに見つかり、以前と同じだけの収入を手に入れることがどれほど難しいか、春名も患者たちの口から――そして、TVや新聞からも聞いて知っている。
「運が良かっただけです」
「……」
 本当にそうだろうか。もちろん、そんな悪運の強さがあるはずがないとは言わないが。
 ――何かがおかしい。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人Yとの対談

カサアリス
ライト文芸
ひとつテーマを決めて、週に1本。 制約も文字数も大まかに設定し、交換日記のように感想と制作秘話を話し合う。 お互いの技量に文句を言わず、一読者・一作家として切磋琢磨するシリーズです。 テーマはワードウルフを使ってランダムで決めてます。 サブテーマは自分で決めてそれを題材に書いています。 更新は月曜日。 また友人Yの作品はプロフィールのpixivから閲覧できます。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...