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Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔

黒魔術の可不可―悪魔 21

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 結局、また味噌汁は冷めるに任せて、二人は慌ただしく肌を重ねた。
 何しろ、仁がいつ帰って来るか判らない状況で、互いの欲求を満たさなくてはならなかったのだ。服を脱ぐ間ももどかしく、柔らかさと、硬さをからませながら、束の間の情事を激しく貪る。
 結婚という打算も、男と女であることの驕りも何もかも捨て去り、今はただ、感情の昂ぶりだけに従った。
 ――そう。
 春名と仁は男同士であり、笙子と違って結婚出来る関係でもない――。だから、どこかで慢心していた部分があったのだ。春名はきっと自分を選ぶ、と――。この地球に生物が誕生した時の理に沿って、自らの子孫を残すために、女である笙子を選ぶはずだ、と。
 もちろん、春名の中にも自分の遺伝子を残す、という生物の本能のようなものはあるのかも知れないが、二人は――仁と春名の二人は、そういうものとは関係のない世界で繋がってしまっている。
 たとえそれが、互いを――自分たち二人だけを頼り、依存する、という病の世界であっても……。
「……子供が欲しいわ」
 笙子は言った。
「あなたが手に入らないのなら、あなたの子供を育てたい」
 荒い呼吸も徐々におさまり、その名残のように、心の言葉を吐き出してみる。
 だが、春名の言葉は返らなかった。――いや、
「無責任なことをしていると思っている」
 申し訳なさそうに、そう言った。
「セックスはセックス、子供は子供よ」
「俺は父親にはなれな――」
「父親はもういいわ。子供が欲しいの。自分の遺伝子と、あなたの遺伝子を持つ子供を育てたい」
「……」
「考えておいてくれないかしら? 独りで育てていけるだけの生活力はあるつもりよ。――仁くんには、あなたの子供だとは言わない」
「すぐに気付くさ。そういう子だ」
「なら、子供が出来たら、あなたたちの前から消えるわ」
「……」
「それならいいでしょう?」
 春名を追い詰めているのだ、ということは解っていた。
 だが、笙子もいつまでも若くはないのだ。春名以上に惹かれる男がいないのなら、春名の――愛した人の遺伝子――子供が欲しい。
 それでも――。
 それでも、春名は何も言わないに違いない。
「……哀しいことに、大人の分別は持っているのよ。セックスの代償に、子供を要求したりはしないわ。セックスは、私にもあなたにも必要なモノ。子供は、私にだけ必要なもの――。次は、私の中にあなたの遺伝子をちょうだい」
 逃げることも、はぐらかすことも出来ずにいる春名を抱きしめ、笙子は迷いのない思いを告げた。
 より優れた遺伝子を残したい――全ての生物が持つ本能に従い、愛した人の子供を産み、育てたい、と思うのは、圧倒的大多数の生き物の望みなのだから。
 そして、それは春名も同じことだろう。
 だが、それを認めてしまうと、仁との生活を否定してしまわなくてはならない。
 いつかは別々の人生を歩むのだと。
 互いに、別のパートナーを見つけるのだと。
 そして、それぞれに、それぞれの遺伝子を残して果てるのだと。
「あー、すっかり冷めちゃったわね」
 言いながら、笙子はさっき温めた味噌汁を飲み、再び、エントランスで見た、あの占星術師のことを思い出していた。
「そういえば、あの占星術師のおばさんが越して来る前のお隣りさんって、どんな人だったかしら?」
 普段は、他の住人のことなど大して気に留めもしないのだが、今日は何故か心に引っかかった。
「え? さあ……。仁くんなら覚えているかも知れないが――」
 そこまで言い、春名はふと思い当たったのか、
「仁くんが戻っていないのに、あの占星術師だけがこのマンションに帰って来ているのか?」


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