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81.青春はすぐそばに

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 恋愛に興味がないどころか、今でもたまに届く贈り物につけられた恋文で遂に「そういう意味」で今まで贈り物をされていたことに気がついたクレアは「出ていくか…?」と呟いた。嫌いとかそういうのよりも今は「怖い、あの人」が勝っている。
 エリアスはまめな連絡と贈り物が女性から好かれるコツだ、と周りの女性に聞いて試しているのだが、それが通用するだけの期間は終わっていた。クレアは下心有りの監視に若干怯えていた。今は近くにマーリンがいるので何かある、ということは無いと思ってはいるが、魔法を物理で破ってこれる相手に対して思うところはある。


「クロエさん!!見て、デケー肉!!」


 それに対して。
 ニッコニコで高級食材として売っているミノタウロスの肉を掲げたユウタにクロエは瞳を輝かせた。ユウタは割とアプローチに成功している部類かもしれない。最近ではクロエの居城とも言えるキッチンでのお手伝いも許されている。マーリンはそれを見ながら、「マメだな、アイツ」と思っていた。嫋やかな見た目に女性らしい体つきをしているソフィーではなく、一見粗野なクロエをガチで狙っているあたりの理解が彼にはできないけれど。


「どうしたんだ、それ?」

「斧持ったデケー牛倒して解体した!!」

「よくやった!!」


 背中をバシバシと叩くクロエは「とびっきり旨いの作ってやんよ」とユウタにニッと笑いかけると、ユウタはその笑顔に頬を染めた。彼が一番青春をしている。


「俺も一緒に作るよ」

「助かる」


 照れながら口に出せば、返ってくる信頼が感じられる言葉にユウタは嬉しそうに、はにかむように笑った。
 そんなユウタを見て、クロエは一瞬だけ頬を染めた。彼女は今まで一緒にいたソフィーが中身狂犬でも外見はたおやかな美女だったために、むしろ男のように扱われた。勝ち気な性格もそれを助長したのかもしれない。せっせと自分のために好物を運ぶ強い異性は強い者を好む彼女の生態もあって魅力的に映っていた。


「お前、ホントせっせと獲物持ってくるよな」

「クロエさんの喜ぶ顔が一番好きなんだ」


 自覚があるのかないのか、見つめ合う二人を見ながら、魔導師の師と弟子はなんかじゃりっと甘いものを食べた気分になりながら苦味の強い茶を口にした。


「あの二人がくっつけば勇者の手綱握れていいよね」

「別にそういうつもりはありませんよ、我が師」


 奴隷にされ、能力を下げられた状態で囮にされていたクロエを、クレアは知っている。たまたまクレアが強い魔導師であったから彼女はクレアに忠誠を示した。クレアにとってもクロエは可愛い妹のようなものだ。本人からすれば主人からそう思われているのは不服かもしれないけれど。


「身近な幸せもまた、尊いものだと思います」

「僕的には、お前の幸せを尊ばせて欲しいものだけどね」


 世話のかかる弟子だよ、とこれ見よがしに彼は溜息を吐いた。
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