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56.亡くなっても面倒な者達

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 レディアことアレーディア、及び女王アレクサンドラを悩ませるのは「衣食住なんとかしろ」「下等生物ごときが国を束ねるなんてできないだろう。国をよこせ」などと宣う元コルツ王国の王族である。普通に牢獄にぶち込んである。


「あやつらの脳みその中身はどうなっているのだ」

「一回解剖してみます?元第三王子だとかいうアホの頭を目の前で掻っ捌いてやれば少しは大人しくなると思いますけど」


 そう見えぬ笑顔のままで、おそらくストレスが溜まっているのだろうなと思える発言をする宰相に「いやぁ、野蛮すぎじゃないか。それは」と流石のアレクサンドラも苦笑した。レディアは普段温厚な宰相がブチギレているので「アイツら、命はないな」と思った。


「レオニールはマーリンに脅されてあの国を平らげたらしいが、予想以上に困窮していて食糧難だから少し融通してほしいなどと言い出すし」

「あの国の人間が餓死しようが我々の知ったことではありませんが」

「けれど、民の全てがヒト族以外の人間を虐げてきたわけじゃない」

「そこなんですよねぇ」


 王も王妃も王太子も。
 多くの王族は死んでいる。
 第三王子とやらが辿り着いたのはたまたまであろうが、なぜ自分達が助けてもらえると思ったのか、理解に困る。彼らに関してはさっくり殺しても構わないだろう。
 難民も流れてきているが、現状態度がよろしくない連中もいる。とても助けたいとは思えなかった。そうでなくとも、自国にだって困っている領地はある。そこにさらに負担をかける形で国に入ってくる難民は容赦なく牢にぶち込んでいる。


「牢に入れた者は順次マーリンがどこかに連れて行っているらしいが」


 まともな者はそのまま受け入れられる。クレアのように。
 マーリンが連れて行って帰ってきた者はいない。「見にくるかい?」なんて言っていたが、遠慮した。提案に乗っても碌なことはなさそうだった。


「周辺国から非難されない程度に支援をするとして、人員を送るのはあまりお勧めはできませんね」


 今まで同胞を隷属させようと虎視眈々と狙ってきた人間たちだ。とても助けてやりたいとは思えなかった。何をするかわからないし、何をされるのかもわからない。互いに良い感情を持っていないのだから、コントロールし切れるものではない。


「だったら、僕がその問題を解決してあげよう!」


 楽し気に現れたマーリンに三人ともが頭を抱えた。いつから聞いていたのかわからない。彼は正直なところチートなので何をやらかしても驚きはしないが、一応機密事項だって話す場所に気軽に入るのはやめてほしい。


「弟子の魔法薬の応用で僕も色々育ててみたんだ。ちょっと味は良くないけど食べられると思うから持って行くといいよ。僕は弟子の作った美味しい作物を食べるし」

「まぁ、形さえ整えば表立って何かしらいう馬鹿はいないでしょう。こちらの被害のことも知っているでしょうし」


 要は失敗作の押し付けだが、別にこちらはそれで何も困らない。降って沸いた物なのだから渡してしまってもいいか、と彼らは頷いた。


「それはともかくとして、アレクサンドラんとこの女の子、頻繁に来すぎだと思うんだけど」

「クレアはリズは癒しだから構わないと言っていたわ」

「ハァ?弟子は師匠を優先するもんだろ。なんとかして」

「その文句は本人に言いなさい。本人に」


 帰宅後、クレアに言ったらゴミを見るような目を向けられた。


「師、年下の弟子に駄々をこねるのは恥ずかしいことでは?」


 正論である。
 それはそれとして、晩ごはんを師の好物にするあたり、クレアもマーリンには多少甘かった。
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