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43.燻るもの

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 リヒトはある程度回復したベルナルドと、妹と一緒に用意された家へと移った。その上でクレアの身柄について話すと、彼もまた複雑そうな顔で「あの御仁は略奪行為を許容できるお人柄ではありますまい」と言った。


「生まれた場所が悪かった。としか言えませぬ」


 ベルナルドもまた、クレアを仇だなんて思えなかった。そう思うには保護されてからよくされすぎていた。あるいは、その行為が彼女の罪悪感を埋めるためであったとしても、シャルロッテがあれだけ屈託なく笑える日々を提供してくれたのは彼女である。あの略奪に関与していないというのであれば、もう何も言えなかった。


「しかしながら、これは我々がクレアに助けてもらったからこその感情です」

「わかっている」


 それでも、コルツ王国の者たちからされたことは彼ら国を焼き払われた者たちの記憶から消えることなく、憎しみは募るばかりだ。今も周辺諸国から物資を奪っているというかの王国には反省など微塵も見られない。日々周囲を苦しませているだけだ。実際にどうあれ、その王国に住んでいるとあれば、民にだって他国からの憎しみは向けられる。自分達に向けられるものが理不尽であると気づく者も少なくない。内からも外からも、現状を打ちこわしたいと願われていた。

 シャルロッテは兄たちの話を聞きながら笑う。クレアには感謝している。彼女が関与していないのならばシャルロッテにとって親切な人の破滅を見ずに済むというそれだけのことだ。
 クレアは少し優しすぎたのだろう。それを利用し、踏み躙った人間を嫌悪する。
 医師はシャルロッテの声を「強いストレスによるもの」と言ったが本当は違うのだ。これは、そう。シャルロッテが神に願い、捧げたものだ。願いが叶うのであれば多少の不便くらいは許容の範囲内だ。クレアは「声が出せないと危ない局面もあるからな」と危ない時に鳴らすとけたたましくて安全になるまで鳴り止まないベルまで渡してきたりする。基本的に善良な人間だ。

 シャルロッテは国を奪った者たちを、自分達を踏み躙ってそれを当然だと思う者たちを許せない。


 コルツ王国王城の窓辺に、紫色の小鳥がとまった。魔法の気配がした部屋の主人が近づくと、空間が遮断されたように感じる。


「やあ、僕を好いてはいない弟子が久しぶりに連絡してきたから見にきたよ。それにしてもこの国、きったなくなったねぇ?いっそのこと早く地図から消えてしまえば面白いのに」


 本当に愉快そうに話す小鳥に眉を顰める。小鳥の中身は弟子にさえ「問題しかないヤバい魔導師」と言われる男である。けれど、クレアはその男が“ルナマリアの願い”に合致しいていたので一応連絡を入れておいた。


「それにしても、クレアは基本的に日和見で臆病だから国を壊すとか滅ぼすとかに興味はないはずなんだけど、どうして僕に連絡してきたんだろうね?」

「彼女とは向こうからの伝達魔法でしか話したことはありませんの」

「ふぅん……。では、会いに行って吐かせる方が確実かな」


 クレアが聞けばおそらく「絶対にやめてくれ」とうんざりとした声音で言うであろう不吉な言葉を吐いて、小鳥は笑った。
 愛らしい小鳥の形をしておきながら、恐ろしいまでの威圧感を味わったルナマリアの顔は青い。

 見知らぬ魔導師の質問に答えていると、やがて満足したように小鳥は羽ばたいて行った。それと同時に空間の魔法は解除される。


「誰だか知らないけど、敵に回したくはないわね」


 小鳥の消えた窓辺を見ながら、ルナマリアは独りごちた。
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