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41.魔導師の手紙
しおりを挟むヒト族の青年……に見せたエルフの青年リヒト・ファータ・フィオーレは森で野営をしていたところ、フクロウのようなものに手紙を渡された。受け取った瞬間にそれは風に溶けるように消えていった。
「見知った相手の魔力だけを検知して手紙を届ける魔法か。相変わらず規格外なことだ」
遠くにいる相手にこうやってメッセージを送る魔法はないわけではないが、驚くべきは“どこにいるのかわからない相手に対してメッセージを送る”ことができた点である。妹に関する足取りを掴むことすら難しいままでため息を吐きながら手紙を開いた。
手紙を信じられないまま何度か読み返して、クレアが意味なく嘘なんてつかない事を知っている彼はその手紙を燃やして立ち上がった。
「戻るか」
本当に妹がクレアの元にいるとして、もし落としたり、自分に何かあった際に手紙が勇者と名乗る蛮族に渡るのはリヒトの本意ではない。
コルツ王国をざっと回ったが、日々の食べ物にも困っている民が多い印象だった。物価は異様に高く、クレアの渡してきた魔法鞄がなければ早々に旅を諦めることになっていただろう。遠慮したが押し付けられたそれは、自分の認識の甘さを突きつけられたようで苦い気分にもなる。
勇者を用いて各地から野党のように食べ物を奪う王族がいるというのもここに来て初めて見た光景だ。あの様子であれば、そう時間の掛からぬうちに勇者という称号は奪われるだろう。
(姉上のご様子を伺えなかったのは残念だが)
これだけ国が乱れていれば警備も手薄かと思ったが、自分達だけはしっかりと守っているようだ。
夜が明ける前に彼はドラゴレインを目指して森を発つ。
リヒトが手紙を受け取ったのと同時刻、美しいプラチナの髪が鉄格子のはめられた窓から吹き込んだ風で柔らかく揺れた。癖のない髪はクレアが最近保護した少女にも似ている。炎のように苛烈な赤い瞳がフクロウに向けられた。
「あら、姿も見せないなんてこの国の魔導師は態度がなっていないわね」
刺々しい声音。けれどそれも当然だろう。彼女はこの魔法の主である魔導師と共に旅をしていた男たちとこの国に連れ去られたのだ。呻めき、苦しみ、発狂する家族を、民を見てきたのだ。これくらいで済んでいるだけまだマシだとも言える。
「私はすでに遠くにいる。姿を現すことはできない」
フクロウからは魔導師の声がした。謁見の間で報酬を要求していた頃よりもどこか感情が見える声に、フンと鼻を鳴らす。
「何の用?」
「貴方の家族のことだ」
何もかもを奪ったくせに今更何を言いたいのか。そう言おうと思った。けれど、赤髪の魔導師は一人、囚われた姫に伝える。
「貴方の弟と妹は生きている。そして、竜の国にいる」
その言葉に、女は息を呑んだ。思わず、「うそ」とか細い声が発せられる。しかし、魔導師から与えられる彼女の家族の特徴は自分の知るそれと一致する。末の妹の声のことは気にかかるけれど、それでも無事だという魔導師の言葉に安堵の息を吐いた。
「お前、それを私に教えてどうしたいの」
「シャルロッテが、貴方に無事だと伝えられればいいのにと」
自分の話を何も聞かなかった王や勇者とは違うのかもしれない。そう思った彼女は、「この魔法は常時展開可能なのか」と尋ねる。流石に無理だと言われて苦笑した。
「ねぇ、お前。この国を滅ぼすにはどうすればいい?」
戯れに尋ねた問いに、魔導師は「もう滅びかけているようだけれど、」と言った上で続けた。
「私よりも師の方がその手の話には詳しい」
青いフクロウが告げた言葉に、彼女は今度こそ楽しげに笑った。
かの姫君はルナマリア・セレネ・フィオーレ。リヒト、シャルロッテの姉である彼女は消えていくフクロウを見ながら妖艶に笑った。
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